アムステルダム ソムリエ-4



大島晃総料理長が指揮する12月のホテルオークラ・ヤマザトのキッチンには、きりっと締まった独特の和の空気が流れている。


ヨーロッパ貴族の美食にはどこか歴史的に大掛かりなものがある。植民地という歴史を手中におさめた彼らは貴族であり、また開拓者でもあった。その為か、欧州の美食には葡萄園造りから始めてワインを育てるというような土臭い気質と情熱が見えてくる。ダイアナ妃の出身スペンサー家のアール・スペンサーが南アフリカに移り、南アフリカのワインを世界一に選ばれるまでに育てたり、一方アンテロープを鹿肉にみたて最高峰に入るフレンチ・キュイジーヌを開拓していったような隠れた情熱だ。土地をおさめる貴族にとって、土地とファウナ、風土、食材の知識は、一世代の人生時間をすっかり費やして得られ、文化と美食として蓄積され代々受け継がれて行くものなのかもしれない。



アムステルダムという異郷の土地で、毎年御節をつくってきた大島総料理長は、御節の食材を、40年近くお住まいになっている地元欧州で大掛かりに仕入れられる。日本から空輸するのは、ある老舗作りの蒲鉾だけである。12月20日には黒豆が仕入れられ、艶、形をふるいにかけられる。しかし御節料理として適していると大島総料理長が判断するのは一握りだ。


「伊勢海老はちょうど1キロ。地中海のように大き過ぎてもいけません。」
このジャスト1キロの伊勢海老を手に入れるのが至難の業だ。「今年もちょうど1キロの素晴らしいものが最初に手に入りましたが、鬚がとれていた為ためらわずに送り返しました。」平安時代から続く日本の御節の伝統、その中にある縁起や祝という目には見えない「気」は美食とともに大島総料理長によって厳しく選ばれる。


もう日本でも珍しくなった調理方法、小川燻製。1942年生まれのシェフの気がかりは後継者だ。「海外にいるから仕方がないでは、懐石料理はいけない。」


師走の31日午後、ホテルオークラ・山里に御節の重を取りに来るお客達に、日本語・英語・蘭語で流暢に挨拶をする大島総料理長。20年以上も続くホテルオークラ・ヤマザトの御節をとりに来るお客さんの半分以上がヨーロッパ人であることに驚く。懐石料理がアムステルダムで慶ばれているのだ。
そういえば、七夕の頃、オマールの活造り、朝顔にみたてた青いリキュールがギヤマングラスの底に広がる日本酒のカクテル、前菜のとても大きな氷の器に微笑していたのも彼らだった。

キスと花火と抱擁の続くニューイヤーズ・イブ・・・。オセチ・キュイジーヌが、生粋のヨーロッパ人のテーブルに並び始めている。お正月はパリでも、ロンドンでもない。やはり、アムステルダムの聖域だ。



アムステルダム ソムリエ



たった一人の料理人が、
オランダを出窓に
ヨーロッパに伝えた日本文化、
”御節と懐石”

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