晩年、仕事中のアントンピック。彼の絵に登場する印刷屋と同じ様にネクタイを締めている所が、どこか思い描いた通りの姿です。1985年生まれの画家でありながら、アントン・ピックにはグラフィック・デザイナーの雰囲気があります。挿絵画家と呼んでも素敵に聞こえます。多分、アントン・ピック自身、本や印刷物がとても好きな人間だったのではないかと私は想像しています。
最初にアントン・ピックに目を奪われたのは淡い水彩の色でした。小麦のずた袋、白い布、古本や地図の紙、灰色グースの羽、それらの静物がとても美しかったことに心を惹かれました。建物や街を眺めると、傾いた石造りの壁や朽ちた瓦の様子に癒されます。また、アントン・ピックの絵の中に、働く動物達が沢山描かれていたことが面白かったのです。ミルク缶を積んだそりを引く犬を見たときは、子供の頃に読んだフランダースの犬を思い、そんな世界が昔オランダにもあったのだと、私は隅から隅まで絵の中を眺め廻しました。
ときおり、静謐な色彩の中に、可愛いいピンクや綺麗なパウダーブルーが現れる時には、色使いに心を躍らせました。ショーウィンドウに飾られたイースターの飾り卵やシント・ニコラウス。今も昔も変わらないオランダを見るのも楽しみでした。
古い物が好きな私は、キュリオーサ(アンティークよりも安い古物市)を廻るたび、アントン・ピックの世界に出てくる物を沢山集めました。結果は、インテリア・デザインとしては洗練とは無縁、滑稽なほど古びた生活臭だけが残ったのですが、あの楽しい時間こそ、私の心の中にオランダへのノスタルジーが一滴一滴と溜まっていったのだと思います。
ニルスの不思議な旅 挿絵
お店と職業の絵より オランダのベイカリー
壁に並んでいるのは飾りクックを焼く木型です。
重いのでここまで、3に続きます。壁に並んでいるのは飾りクックを焼く木型です。
1895年生まれの画家
アントン・ピックに1票を頂けると
しみじみとオランダにクリスマスが近づきます。