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熊本地震のあと、不安の中で法人化して10年。会社とともに成長してきました

 

気づけば、法人化して10年が経っていました。

 

「10周年だから、何か記念になることをしよう」

 

そんなことを考える余裕もなく、目の前の仕事に必死で向き合っているうちに、いつの間にか10年。

 

振り返ってみると、決して順風満帆なスタートではありませんでした。

 

 

産休・育休から復帰して、わずか1か月で退職

 

私が正社員を辞めたのは、今から16年前。

 

息子を出産し、産休・育休から職場へ復帰した、わずか1か月後のことでした。

 

当時は、産休や育休を取得するスタッフがまだ少なかった時代。

 

院長先生には理解していただいていましたが、周囲から十分な協力を得ることが難しく、仕事と子育てを両立しながら正社員として働き続けることを諦めました。

 

本当は、辞めたくありませんでした。

 

歯科衛生士の仕事が好きでしたし、それまで積み重ねてきたキャリアもありました。

 

それでも当時の私には、退職以外の選択肢が見つからず、泣く泣く職場を離れました。

 

 

あの退職がなければ、今の私はいなかった

 

あの頃の私は、正社員を辞めることを「キャリアを失うこと」のように感じていました。

 

けれど今振り返ると、あのまま正社員として働き続けていたら、今の私はいなかったと思います。

 

退職後、私はフリーランスの歯科衛生士として働き始めました。

 

そして、ひょんなきっかけから法人化し、会社を立ち上げることになりました。

 

明確な事業計画があったわけでも、経営者としての知識や自信があったわけでもありません。

 

ただ、自分にできることを模索しながら、一歩ずつ進んでいきました。

 

 

 

熊本地震のあと、不安の中で法人化

 

法人化したのは、2016年の熊本地震で大きく被災したあとのことでした。

 

生活も仕事も、これからどうなっていくのか分からない。

 

先の見えない状況での法人化でしたから、期待よりも不安のほうが大きかったことを覚えています。

 

「本当に私に会社を経営できるのだろうか」

「これから仕事を続けていけるのだろうか」

 

そんな不安を抱えながらのスタートでした。

 

経営についても、会社のお金についても、ほとんど何も分からない状態。

 

歯科衛生士として患者さんの口腔内を見ることはできても、決算書や会計の数字を読むことはできませんでした。

 

領収書はどう管理するのか。

 

帳簿とは何なのか。

 

会社のお金と個人のお金は、どう分けるのか。

 

法人化してから、必要に迫られるように経理を学び始めました。

 

今思えば、右も左も分からないまま、よく会社を立ち上げたものだと思います(笑)

 

 

 

コロナ禍で、初めてビジネスの基礎を学んだ

 

少しずつ仕事を続けていく中で、今度は新型コロナウイルスの感染拡大が起こりました。

 

訪問することが当たり前だった仕事が、突然できなくなる。

 

人と直接会い、現場で伝えることを大切にしてきた私にとって、これまでの働き方を見直さなければならない大きな転機でした。

 

そこで私は、初めて本格的にビジネスの基礎を学び始めました。

 

自分の経験や知識を、誰に、どのような形で届けるのか。

自分が提供できる価値を、どのように言葉にするのか。

必要としてくださる方と、どうやって出会うのか。

 

良い技術や知識を持っているだけでは、必要な方には届きません。

 

届けるための仕組みをつくることも、仕事の一部なのだと知りました。

 

法人化をきっかけに経理を学び、コロナ禍をきっかけにビジネスを学ぶ。

 

振り返れば、その時々に起きた出来事が、私に必要な学びを与えてくれました。

 

 

 

会社を成長させたのではなく、会社に成長させてもらった

 

この10年間、私が会社を成長させてきたように見えるかもしれません。

 

けれど、本当は逆なのだと思います。

 

私は、法人化とともに成長させてもらいました。

 

経営者として判断すること。

自分の仕事に責任を持つこと。

数字から逃げずに向き合うこと。

自分の経験や知識の価値を、きちんと言葉にして届けること。

そして、一人では何もできないと知ること。

 

会社を続ける中で、私は多くのことを学ばせてもらいました。

 

BRILLIAは、私にとって単なる屋号ではありません。

 

私自身の成長の過程そのものです。

 

 

思いどおりにならなかった経験が、今の使命につながった

 

フリーランスになり、さまざまな歯科医院に関わる中で、私は多くのスタッフの悩みに触れてきました。

 

仕事は好きなのに、人間関係に悩んでいる。

 

頑張っているのに、認めてもらえない。

 

結婚や出産をきっかけに、働き続けることを諦めようとしている。

 

院長とスタッフの思いがすれ違い、医院全体が苦しくなっている。

 

その姿を見るたびに、16年前の自分と重なります。

 

だからこそ私は今、

「歯科医院で楽しく、輝いて働くスタッフを増やしたい」

という思いで、医院改革コンサルティングやスタッフ教育に携わっています。

 

私にとっての「楽しく働く」とは、ただ仲良く、楽に働くことではありません。

 

自分から患者さんや医院のために考え、行動できること。

 

そして「輝いて働く」とは、自分らしさや強みを生かしながら、イキイキと仕事ができることです。

 

16年前、働き続けたくても続けられなかった経験があるからこそ、スタッフが安心して成長できる医院づくりを支えたいと思うようになりました。

 

あのときは「失った」と感じていた出来事が、今の私の仕事と使命につながっています。

 

 

 

すべての出来事には、あとから分かる意味がある

 

人生には、そのときには意味が分からない出来事があります。

 

できれば経験したくなかったこと。

思いどおりにならず、悔しかったこと。

もう終わりだと思ったこと。

 

けれど、それが新しい人生の始まりになることもあります。

 

正社員を辞めたこと。

熊本地震で被災したこと。

不安の中で法人化したこと。

コロナ禍で働き方を見直したこと。

 

その一つひとつが、今の私をつくってくれました。

 

 

 

 

11年目にして、やっと地に足がついた

 

そして11年目を迎えた今。

やっと、やっと、地に足がついたような感覚があります。

 

これまでの10年間は、目の前の仕事に向き合い、走りながら考え、必要なことを必死に学び続けてきました。

 

自分は何を大切にしたいのか。

誰の、どのような力になりたいのか。

自分の経験や強みを、仕事としてどう届けていくのか。

 

迷いながら進んできた点と点が、ようやく一本の線としてつながってきたように思います。

 

もちろん、すべてが完成したわけではありません。

 

けれど今は、自分が進む方向と、果たしたい役割がはっきり見えています。

 

10年かかって、ようやくここまで来ました。

 

そして、ここからが本当のスタートなのだと思います。

 

 

 

ここまで関わってくださった、すべての皆さまへ

 

法人化して10年。

 

決して、私一人の力で歩いてきた10年ではありません。

 

仕事を任せてくださった院長先生。

一緒に学び、成長してくださったスタッフの皆さん。

応援してくださる仲間。

支えてくれる家族。

 

そして、これまで出会ってくださったすべての皆さまのおかげで、今の私があります。

 

本当にありがとうございます。

 

これからもBRILLIAは、歯科医院で楽しく、輝いて働くスタッフを増やすために。

 

院長とスタッフの思いをつなぎ、患者さんによりよい医療が届く組織をつくるために。

 

これまでの経験を力に変えながら、私らしく一歩ずつ進んでいきます。

 

11年目のBRILLIAも、どうぞよろしくお願いいたします。

 

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「権利」を主張する前に、あなたは信用を積み重ねていますか?

 

最近、歯科医院の院長先生から、このようなご相談を受けることが増えました。

 

「希望休は当然のように主張するけれど、医院のルールは守らない」

「自分の勤務時間には敏感なのに、遅刻や報告漏れには無頓着」

「自分の都合は伝えるけれど、周囲の負担までは考えていない」

 

もちろん、すべての若いスタッフがそうではありません。

 

しかし、時代背景や価値観の変化もあり、

特に若年層のスタッフに対して、

どのように伝えればよいのか頭を抱えている経営者が増えているのも事実です。

 

 

働く人の権利は、守られるべきもの

 

休暇を取得すること。

適切な給与を受け取ること。

安全な環境で働くこと。

自分の意見を伝えること。

 

これらは、働くスタッフに認められた大切な権利です。

 

私は、スタッフが我慢し続ける職場がよいとは思っていません。

 

ただし、権利を主張することと、組織の一員として信頼されることは、別の話です。

 

権利だけを先に振りかざし、自分が果たすべき役割や周囲への配慮を後回しにしていては、

組織からの信用を得ることはできません。

 

 

信用は「些細な義務」の積み重ね

 

義務を果たすというと、大げさに聞こえるかもしれません。

 

しかし、実際には日常の些細な行動ばかりです。

・時間を守る
・挨拶や返事をする
・決められたルールを守る
・自分の仕事を最後までやり遂げる
・ミスを隠さず、速やかに報告する
・変更事項を周囲へ共有する
・使用した器具や物品を元に戻す
・次に使う人のことを考えて準備する
・忙しいスタッフがいれば声をかける
・休みを希望するときは、周囲への影響も考える
・患者さまを待たせていたら、自分にできることを探す

 

一つひとつは、本当に小さなことです。

 

しかし、この小さな行動を誠実に続けられる人が、

「この人なら安心して任せられる」

「この人の希望なら、できる限り応えてあげたい」

と思ってもらえる人になります。

 

信用は、役職や年齢によって与えられるものではありません。

 

毎日の行動によって、自分で積み重ねていくものです。

 

 

歯科医院は「自分一人」で働く場所ではない

 

歯科医院は、チーム医療です。

歯科医師だけでも診療はできません。

 

歯科衛生士、歯科助手、受付、それぞれが役割を果たし、

連携することで患者さまへ安全な医療を提供できます。

 

だからこそ、

「私はこうしたい」

「私にはこの権利がある」

だけで考えてはいけません。

 

自分が急に休めば、誰がその仕事を引き受けるのか。

自分が報告を怠れば、誰が困るのか。

自分が片づけなければ、次に使う人はどうなるのか。

自分の行動が、患者さまの安全や医院全体の流れにどのような影響を与えるのか。

 

そこまで考えることが、チームの一員として働く責任です。

 

 

「自分の権利」と同じように、仲間の権利も大切にする

 

自分が休む権利を大切にするなら、仲間が安心して休める環境にも協力する。

自分の意見を聞いてほしいなら、相手の意見にも耳を傾ける。

自分の時間を大切にしたいなら、周囲の時間も大切にする。

 

権利とは、自分だけが得をするためのものではありません。

 

お互いの権利を守るために、それぞれが役割と義務を果たす必要があります。

 

 

経営者側にも「伝える責任」がある

 

一方で、経営者が「昔は言わなくても分かった」と考えているだけでは、

今のスタッフには伝わりません。

 

・医院が大切にしている価値観
・働くうえで守るべきルール
・報告、連絡、相談の基準
・スタッフに求める行動
・チームの一員としての責任

 

これらを、言葉にして具体的に伝える必要があります。

 

「社会人なら分かるでしょう」

「普通はこうするでしょう」

では、人によって受け取り方が異なります。

 

権利と義務の両方を明確にし、できている行動は認め、できていないことは曖昧にせず伝える。

 

それが、これからのスタッフ教育には必要です。

 

権利を主張してはいけないのではありません。

 

まずは、自分に任された役割を誠実に果たすこと。

患者さまや仲間への影響を考えて行動すること。

そして、組織からの信用を積み重ねること。

 

歯科医院は、自分一人の都合だけで動く場所ではありません。

 

一人ひとりが「チームのために、自分は何ができるか」を考えられる医院こそ、

患者さまにもスタッフにも選ばれる医院になるのだと思います。

 

 

 

 

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「スタッフが頑張ってくれたから、利益を還元したい」

そう考える院長先生は、スタッフ思いの優しい方だと思います。

 

医院の売上が上がったとき、頑張ってくれたスタッフに賞与として還元したい。

 

その気持ち自体は、とても素晴らしいものです。

 

しかし私は、インセンティブについて相談を受けるたびに、
単純に「いいですね」とは答えられません。

 

なぜなら、院長の善意から始まった還元が、

スタッフのモチベーションを上げるどころか、

職種間の対立や人間関係の悪化につながることがあるからです。

 

 

歯科医院は、職種によって「成果の見え方」が違う

 

歯科衛生士の業務には、歯周基本治療やSPTなど、診療報酬として数字に表れるものがあります。

 

一方で、歯科助手や受付の仕事は、本人の売上として数字には表れにくいものです。

 

しかし実際には、受付が予約を整え、患者さんに対応し、キャンセルや中断を防いでいる。

 

歯科助手が診療の準備や片付け、滅菌、在庫管理、診療補助を行っている。

 

その環境があるからこそ、歯科衛生士は患者さんに集中し、診療報酬につながる仕事ができます。

 

つまり、歯科衛生士の点数は、歯科衛生士一人だけで生み出した成果ではありません。

 

見える成果と、見えにくい貢献。

 

どちらも医院には欠かせないものです。

 

 

全員へ平等に還元すれば、納得してもらえるのか

 

では、歯科衛生士だけでなく、受付や助手を含めた全員に同じように還元すればよいのでしょうか。

 

残念ながら、それでも問題が起こることがあります。

 

仕事ができるスタッフからすると、

 

「私は自分の仕事だけでなく、周囲のフォローまでしている」

「仕事を覚えようとしない人や、指示されたことしかしていない人と、なぜ同じ評価なのか」

という不満が出るからです。

 

院長は「みんな頑張ってくれた」と思っていても、その“みんな”とは誰なのでしょうか。

 

主体的に動いた人。

新しい仕事を覚えた人。

患者さんとの信頼関係を築いた人。

後輩を育て、周囲を支えた人。

言われた仕事だけをした人。

自分の不足を周囲に補ってもらった人。

 

これらをすべて「みんな頑張った」と一括りにしてしまうと、頑張った人ほど、

「私の努力を見てもらえていない」

と感じます。

 

全員を大切にすることと、全員を同じ評価にすることは違います。

平等に配ることが、必ずしも公平とは限らないのです。

 

 

還元されたお金が、職種間の上下関係をつくることもある

 

歯科衛生士は自分の点数が見えるため、

「私たちが医院の売上をつくっている」

という意識を持ちやすくなります。

 

それが強くなると、受付や助手に対して、
知らず知らずのうちにマウントを取るような態度が表れることがあります。

 

一方、受付や助手には、

「私たちが診療を支えていることは評価されないのか」

「歯科衛生士の点数を上げるために働いているわけではない」

という不満がたまります。

 

院長は全員に感謝を伝えたかったはずなのに、
お金をきっかけに「誰が一番医院へ貢献しているのか」という争いが始まってしまうのです。

 

 

売上は、スタッフの頑張りだけでは決まらない

 

医院には、忙しい時期と、比較的落ち着く時期があります。

 

患者数、キャンセル、診療日数、院長の診療内容、人員体制など、
売上にはさまざまな要因が関係します。

 

スタッフの努力だけでは左右できないことも少なくありません。

 

そのため、売上が上がったときには賞与が増え、
売上が下がったときには減る仕組みにすると、スタッフ側には、

「同じように働いているのに、なぜ今回は少ないのか」

「もっと患者さんを診なければいけないのか」

「忙しくないのは私たちの責任なのか」

という不満やプレッシャーが生まれます。

 

最初はありがたかった還元も、何度か続けば「もらえるもの」という認識に変わります。

 

そして、増えたときの喜びよりも、減ったときの失望のほうが大きくなりやすいのです。

 

インセンティブは、売上が上がったときだけではなく、
売上が下がったときに組織を壊さないかまで考える必要があります。

 

 

支給される側も、実はしんどい

 

インセンティブは、支給されなかった人だけが不満になるものではありません。

支給された側も、しんどくなることがあります。

 

私自身、過去に院長から、

「頑張ってくれているから、インセンティブで還元したい」

と声をかけていただいたことがあります。

 

頑張りを認めてもらえたことは、もちろん嬉しかったです。

 

しかし同時に、

「これを受け取ったら、今まで以上に成果を出し続けなければならないのではないか」

「院長の期待を裏切れなくなるのではないか」

「周囲から、院長にひいきされていると思われないだろうか」

「他のスタッフとの関係が悪くならないだろうか」

という重圧を感じました。

 

ご褒美のはずのお金が、
私には「これからも期待に応え続けなければならない」という約束のように感じられたのです。

 

そのため、私はその申し出をお断りしました。

 

インセンティブを受け取った人が、うれしくて、さらにやる気になるとは限りません。

 

受け取った以上、仕事を断りにくい。

一度評価された水準を下回れない。

周囲に申し訳ない。

 

そのような“見えない負担”まで背負うことがあります。

 

 

院長の「感謝」と、スタッフの「評価」は違う

 

院長は、感謝としてお金を渡します。

 

しかしスタッフは、そのお金を「自分の働きに対する評価」として受け取ります。

 

ここに、認識のズレがあります。

 

だからこそ、インセンティブを導入する前に、少なくとも次のことを明確にする必要があります。

  • 何に対する還元なのか

  • 医院全体の業績と、個人の貢献をどう分けるのか

  • 職種ごとの見えにくい貢献を、どう評価するのか

  • 支給額に差をつける場合、その根拠を説明できるのか

  • 売上が下がった場合は、どのように扱うのか

  • 支給される人とされない人の関係性に、どのような影響があるのか

賞与として還元するなら、

「医院全体の成果に対する共通部分」と、

「一人ひとりの行動や貢献に対する個人評価」

を分けて考える方法もあります。

 

ただし、個人評価を歯科衛生士の点数だけで判断してはいけません。

 

受付には受付の、助手には助手の、歯科衛生士には歯科衛生士の役割があります。

 

職種ごとに期待する行動を明確にし、
技術、主体性、患者対応、連携、後輩育成、業務改善なども含めて評価する必要があります。

 

 

インセンティブは「ご褒美」ではなく、人事制度

 

私は、スタッフへの還元そのものに反対しているわけではありません。

 

頑張りが正しく認められ、医院の成果がスタッフへ還元されることは、とても大切です。

 

しかし、院長の「喜んでくれるだろう」という思いだけで始めるのは危険です。

 

何を評価しているのかが曖昧なままお金を配ると、
それは感謝ではなく、比較、圧力、ひいき、不公平感の象徴になることがあります。

 

インセンティブは、支給される人のやる気だけを考えるものではありません。

 

支給されない人の気持ち。

支給された人が背負う重圧。

職種間の関係性。

売上が下がったときの反応。

そこまで考えて設計する必要があります。

 

院長の優しさを、本当の意味でスタッフの喜びにつなげるために。

 

インセンティブを「出すか、出さないか」の前に、

誰の、どのような貢献を、何のために評価するのか。

 

まずはそこから考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

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「スタッフに勉強させたい」は難しい―

 

一般企業に置き換えて考えるスタッフ教育

 

「スタッフに、もっと勉強してほしい」

歯科医院の院長先生から、よく聞く言葉です。

 

「セミナーを案内しても、誰も行きたがらない」

「本を渡しても、読んでいる様子がない」

「歯科医療に携わる専門職なのだから、自分から学んでほしい」

 

院長先生がそう思われるのは、決して無理もありません。

 

患者さんにより良い医療を提供したい。

スタッフにも知識や技術を身につけ、自信を持って働いてほしい。

そして、安心して仕事を任せられる医院にしたい。

 

「勉強してほしい」という言葉の奥には、そんな願いがあるのだと思います。

 

ただ、ここで一度、歯科医院を一般企業に置き換えて考えてみたいのです。

 

 

一般企業では、社員が自ら勉強しに行くのか

 

もちろん、自分で本を買い、休日にセミナーへ参加したり、資格取得を目指したりする社員はいます。

 

向上心があり、学ぶことが好きな人。

将来の目標が明確な人。

今の仕事に課題を感じ、解決したいと思っている人。

会社から言われなくても、自ら学ぶ人は確かに存在します。

 

しかし、すべての社員が、自分の時間とお金を使って仕事に必要なことを学びに行くでしょうか。

 

例えば、会社が社員に「営業力を高めてほしい」と考えたとします。

 

そのとき、社長が「営業職なのだから、休日に自費で営業セミナーへ行くのが当然だ」と社員の自主性だけに任せていたら、組織全体の営業力は安定して向上するでしょうか。

 

おそらく、学ぶ人と学ばない人の差が広がるだけです。

 

会社として必要な能力であれば、研修を用意する、上司が指導する、実践の場をつくる、振り返りを行うなど、組織として育成の機会を設けるのではないでしょうか。

 

歯科医院も同じです。

 

自ら学ぶスタッフが現れることを期待するだけでは、医院全体の育成は進みません。

 

 

「医院教育」と「自己研鑽」を分けて考える

 

専門職として、学び続ける姿勢は大切です。

 

歯科医療は変化し、患者さんの価値観や求められる対応も変わります。

資格を取得したら学びが終わる、という仕事ではありません。

 

だからといって、医院が必要としている知識や技術まで、すべてスタッフ個人の自主性に任せてよいとは限りません。

 

学びは、大きく二つに分けて考えられます。

 

一つ目は、医院の診療方針を理解すること、

院内の共通ルール、患者説明、接遇、感染対策、業務に必要な知識や技術など、

医院で働くうえで必要な教育です。

 

これは医院側が、何を身につけてほしいのかを明確にし、

学ぶ機会や練習の場、確認する仕組みを用意する必要があります。

 

 

二つ目は、興味のある分野を深める、認定資格を取得する、

将来のキャリアのために学ぶなど、本人が目指す成長のための自己研鑽です。

 

こちらは本人の意思が中心になります。

医院が費用補助や休暇、発表の場などで応援できれば、さらに学びやすくなるでしょう。

 

この二つを一緒にしてしまうと、院長は「なぜ自分から勉強しないのか」と不満を感じ、

スタッフは「医院から求められているのに、なぜ自分の休日とお金を使うのか」と感じます。

 

どちらが正しい、間違っているという話ではありません。

 

学びの位置づけについて、院長とスタッフの認識がずれているのです。

 

 

院長には見えていても、スタッフには見えていない

 

院長先生には、医院の目指す方向や、これから必要になる知識・技術が見えています。

 

一方、スタッフは目の前の診療や業務で精いっぱいかもしれません。

 

「なぜ、それを学ぶ必要があるの?」

「何を、どこまでできればいいの?」

「できるようになったら、患者さんや自分の仕事がどう変わるの?」

 

ここが曖昧なままでは、学びが「院長に言われたからやること」になりやすいのです。

 

例えば、「患者説明を勉強しておいて」と伝えるだけでは、何を学べばよいのか分かりません。

 

「治療の説明をしたあと、患者さんが不安そうなまま帰られることがあるよね。

患者さんが安心して質問できる声かけを、みんなで身につけたいんだ」

 

このように伝えれば、学ぶ目的と、診療とのつながりが見えてきます。

 

医院が求めていることと、スタッフが現場で困っていることをつなぐ。

 

そのひと手間が、学びの入り口になります。

 

 

「やる気がない」と決める前に、つまずいている場所を見る

 

学ぼうとしないように見えても、その背景は一人ひとり違います。

 

必要性が分からない人。

何から始めればよいか分からない人。

質問すると「そんなことも知らないの?」と思われそうで聞けない人。

学ぶ意欲はあっても、日々の業務で余裕を失っている人もいます。

 

だから私は、まずスタッフに、こう尋ねることを大切にしています。

 

「今の仕事で、困っていることは何ですか?」

「もう少し自信を持ってできるようになりたいことはありますか?」

 

すると、

「患者さんに質問されると、うまく答えられない」

「先輩によって教え方が違うので迷ってしまう」

「知識は聞いたけれど、実際にやるとうまくできない」

といった言葉が出てきます。

 

必要なのは、知識の補充かもしれません。

実習や練習の機会かもしれません。

あるいは、院内で教える内容や基準をそろえることかもしれません。

 

原因が違えば、必要な教育も変わります。

 

 

セミナーに参加させたら、育成完了ではない

 

セミナーに参加した。動画を見た。資料を読んだ。

それだけで、翌日から診療が変わるとは限りません。

 

「知っている」と「診療の中でできる」の間には、実践と振り返りが必要です。

 

例えば、患者さんへの説明を学んだなら、次のような流れを院内につくります。

  1. 学んだ内容から、明日試すことを一つ選ぶ

  2. スタッフ同士で短く練習する

  3. 実際の診療で試してみる

  4. 患者さんの反応や難しかった点を共有する

  5. できたことを認め、次に取り組むことを決める

最初からすべてできることを求めず、一つずつ診療につなげていく。

 

ここまで支えて初めて、研修が医院の力になります。

 

 

自主性は、待つものではなく育てるもの

 

「言われなくても、自分から学ぶスタッフになってほしい」

その願いは、とてもよく分かります。

 

しかし、自主性は「自由にしておけば自然に生まれるもの」とも、

「勉強しなさいと言えば身につくもの」とも限りません。

 

学ぶ目的が分かる。

少し試してみる。

できたことを認められる。

患者さんの反応が変わる。

自分の成長を実感する。

 

この経験の積み重ねが、「もう少し知りたい」「次はこれをできるようになりたい」という気持ちにつながります。

 

週に一度、10分だけ確認する。

ミーティングで一つの事例を話し合う。

診療の空き時間を練習や振り返りに使う。

 

長時間の勉強会を開かなくても、できることはあります。

 

そして変化が見えたときには、具体的に伝えてください。

 

「今日の説明、患者さんが安心した表情になっていたね」

「分からないところを確認してくれたから、安心して任せられたよ」

 

自分の学びが、患者さんや医院の役に立ったと実感できれば、

次の学びは少しずつ「させられるもの」ではなくなっていきます。

 

 

院長がすべて教える必要はありません

 

診療も経営も担う院長先生が、スタッフ教育のすべてを抱えるのは大変です。

 

院長先生には、まず

「どんな医療を提供したいのか」

「なぜ、この学びが必要なのか」

「どこまでできるようになってほしいのか」

を示していただきたいと思います。

 

その方向性を日々の行動に落とし込み、

練習や振り返りを支える役割は、

院内のNo.2や教育担当者、

外部の支援者と分担できます。

 

大切なのは、スタッフの自主性に育成を丸投げしないこと。

そして、院長先生が教育のすべてを一人で背負わないことです。

 

「スタッフに勉強させたい」と感じたら、

まず、次の三つを整理してみてください。

  • それは、医院として必要な教育なのか、本人の自己研鑽なのか

  • なぜ必要なのかを、スタッフが理解できる言葉で伝えているか

  • 学んだことを診療で実践し、振り返る仕組みがあるか

スタッフが自ら学ぶ医院は、最初から意欲の高い人だけが集まった医院とは限りません。

 

学ぶ意味が分かり、成長を実感できる環境があるから、

少しずつ自発的な行動が増えていくのです。

 

私は、歯科医院で楽しく輝いて働くスタッフを増やしたいと考えています。

 

学びが負担や義務だけで終わらず、

患者さんへのより良い関わりにつながり、スタッフ自身の自信にもなる。

 

そんな育成の仕組みを、院長先生と一緒につくっていきたいと思っています。

 

 

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歯科医師が歯科衛生士を教育するのは、なぜこんなに難しいのか?

 

「何度言っても、スタッフが動いてくれない」

 

「ちゃんと教えているのに、なかなか成長しない」

 

「患者さんのためにも、医院のためにも必要なことなのに、どうして分かってもらえないんだろう」

 

歯科医院に関わっていると、院長先生からこのようなお話を伺うことがあります。

 

でも私は、歯科衛生士として長く現場に立ち、

今は外部講師や歯科衛生士コンサルタントとして医院に関わるようになって、

一つ強く感じていることがあります。

 

それは、

歯科医師が歯科衛生士を教育することには、そもそも難しさがある

ということです。

 

これは、院長先生の教え方が悪いという話ではありません。

 

歯科医師と歯科衛生士だからでもありません。

 

そこには、

「経営者」と「従業員」という立場の違い

があるからです。

 


 

院長とスタッフでは、見えている景色が違う

 

院長先生は、診療だけを見ているわけではありません。

 

売上、人件費、材料費、設備投資、採用、

スタッフの給与、患者数、キャンセル率、医院の将来……。

 

「この医院をこれからも存続させていくためには、どうしたらいいのか?」

経営者として、常に医院全体を見ています。

 

一方、スタッフはどうでしょうか。

 

今日の予約状況を確認して、患者さんをお迎えして、

診療を進めて、時間が押さないように動いて、片付けをして……。

 

目の前の患者さんと、今日の診療を見ています。

 

どちらが正しいという話ではありません。

 

そもそも立っている場所が違うのです。

 

立っている場所が違えば、当然、見える景色も違います。

 

ここを理解しないまま教育しようとすると、院長先生は

「なぜ分からないんだろう?」

と思い、

スタッフは

「また院長が何か言っている」

となってしまいます。

 


 

院長の「医院を良くしたい」が、「もっと働け」に変換されてしまう

 

例えば院長先生が、

「もっと患者さんに説明してほしい」

と言ったとします。

 

院長先生の頭の中には、

「患者さんに自分のお口の状態を理解してもらいたい」

「予防の大切さを伝えたい」

「歯科衛生士として、もっと成長してほしい」

「医院として質の高い医療を提供したい」

という思いがあるかもしれません。

 

ところが、その背景が伝わっていなければ、スタッフ側では、

「今でも忙しいのに、さらに仕事を増やすの?」

「もっと働けってこと?」

と変換されてしまうことがあります。

 

院長先生は「医院を良くしたい」と言っている。

 

でもスタッフには「もっと働きなさい」と聞こえている。

 

ここに大きなズレが生まれます。

 


 

「院長の言うことは絶対」だからこそ、反発が起こることもある

 

そして歯科医院には、もう一つ特有の難しさがあります。

 

それは、

院長が経営者であり、雇用する側である

ということです。

 

院長先生から言われたことに対して、スタッフが

「私はそう思いません」

「それは違うと思います」

と簡単に言えるでしょうか。

 

なかなか難しいと思います。

 

だから表面上は、

「はい、分かりました」

と答えます。

 

ところが、「はい」と言ったからといって、本当に納得しているとは限りません。

 

言われたからやる。

怒られたくないからやる。

評価を下げられたくないからやる。

 

これでは、本当の意味での教育にはなりません。

 

むしろ「院長の言うことを聞かされている」という感覚が強くなればなるほど、人には反発心が生まれます。

 

院長先生は教育しているつもりなのに、

スタッフにとっては、

「働け」
「もっとやれ」
「私の言うことを聞け」

と受け取られてしまう。

 

非常にもったいないことです。

 


 

正しいことを言えば、人が動くわけではない

 

そして、ここが人材教育の難しいところです。

 

院長先生が言っていることは、たいてい正しいのです。

 

患者さんのためにも必要。

医院のためにも必要。

歯科衛生士本人の成長のためにも必要。

 

それでも、人は動きません。

 

なぜなら、

「正しいこと」と「人が動きたくなること」は別だからです。

 

人は、自分で意味を理解し、納得して初めて主体的に動きます。

 

「院長から言われたからやる」

ではなく、

「なるほど。だから必要なんだ」

「患者さんのために、私はこうしてみよう」

と思えるところまで落とし込む。

 

私は、そこまでが教育だと思っています。

 


 

私自身が、両方の景色を見てきたから

 

私自身、歯科衛生士として長く臨床現場に立ってきました。

 

スタッフとして働く立場も経験しています。

 

だから、

「院長から言われると、素直に受け取れない」

というスタッフ側の感覚も分かります。

 

その一方で、現在は多くの歯科医院に外部から関わり、

院長先生から経営や人材についての相談を受けています。

 

すると今度は、

「院長先生は、こんなところまで考えているんだ」

「スタッフには見えていない責任を背負っているんだ」

ということも見えるようになりました。

 

両方の景色を見てきたからこそ、

院長とスタッフのどちらかが悪いのではない。

 

そう思っています。

 

ただ、見えている景色が違うのです。

 

そして、その間には「翻訳」が必要なのです。

 


 

だから私は、院長とスタッフの間に立つ

 

現在、私は外部講師、歯科衛生士コンサルタントとして歯科医院に入り、

スタッフ教育だけではなく、医院全体の改革にも関わっています。

 

私が大切にしているのは、単に歯科衛生士へ技術を教えることではありません。

 

院長先生が、

「この医院をどうしていきたいのか」

「なぜスタッフにこれを求めているのか」

という思いを理解する。

 

そして、それをスタッフが理解できる言葉に翻訳して伝える。

 

反対に、スタッフが感じていることや現場で起きている問題を受け止め、

「スタッフはこう感じています」

「ここが理解できていないから、行動につながっていないのだと思います」

と院長先生へ伝える。

 

院長の想いを現場へ。
 

現場の声を院長へ。

 

その間に立って、両者をつなぐ。

 

私は、それが自分の役割だと思っています。

 


 

歯科医院改革は、「誰が正しいか」を決めることではない

 

医院に問題が起きたとき、

「院長が悪い」

「スタッフが悪い」

と、どちらかに原因を求めたくなります。

 

でも、それでは医院は変わりません。

 

大切なのは、

なぜ噛み合っていないのか?

を見ることです。

 

院長には院長の正しさがあります。

 

スタッフにはスタッフから見えている現実があります。

 

だから必要なのは、どちらかを説得することではありません。

 

それぞれが見ている景色を共有し、

「私たちは、どんな医院をつくりたいのか」

という共通の目的に戻ることです。

 

歯科衛生士教育も同じです。

 

技術を教えるだけでは、人は育ちません。

 

知識を与えるだけでも、人は変わりません。

 

その人が自分の仕事の意味を理解し、

「もっと患者さんの役に立ちたい」

「歯科衛生士として成長したい」

と思える環境をつくる。

 

そして院長先生も、

「どうして分からないんだ」

ではなく、

「どう伝えたら、このスタッフに届くだろう?」

という視点を持つ。

 

そこから、本当の人材育成が始まるのではないでしょうか。

 

私はこれからも、院長とスタッフの間に立ち、

経営者が見ている景色と、現場で働くスタッフが見ている景色をつなぎながら、

人が育ち、組織が育つ歯科医院づくり

に関わっていきたいと思っています。

 

それが、長年歯科衛生士として現場を経験してきた私だからこそできる、

医院改革だと考えています。

 

 

 

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