世界がまた揺れていますね。
この秋から、大きく、変化変容して行くことでしょう✨
さてユダとイエスのお話ですが、今後は毎月ではなく不定期になりますが、投稿を続けていきますね♡
雨水の滴り落ちる音が外の景色を潤している。
微かに草の香をふくんだような空気が鼻先をくすぐり、ユダは、そっと目を覚ます。隣には、イエスの寝顔があった。
髪の毛一本一本、爪のひとつひとつが、夜ごと彼の愛に染まっていく。身体に宿る細胞のひとつひとつが、宇宙に広がる無数の星々のように息づき、密やかに囁いた。
「私は、この男(ひと)を知っている。」
幾度も幾度も、この星でふたりは巡り合った。
ふたりの魂は、もとはひとつだった。陰陽の法則により二つに分かれ、また邂逅を果した。
いかに愛し合い、求め合ったとしても、この星では二人の人間が一つになることはない。
それでも、魂はひとつになろうとする試みを止めることができない。あたかも、躯を重ねることで埋め合わせをするかのように、逢瀬は続いた。永遠に続くかのようだった。
「イエス。お願い、これ以上愛さないで。からだが溶けてしまいそう。」
「それはいい。
溶けなさい、ユダ。溶けて、わたしと一体となればいい。そうすれば、永遠に一緒にいられる。」
二人の間を隔てるものは、何もない。ただひとつ、運命の力をのぞいては。
「怖い」
ユダは呟く。
「また、深くなる。」
深く愛し合えば愛し合うほどに、残酷な運命が息をひそめて、待ち構えているかのように思えた。地上の愛が極に達したとき、見えざる手により歴史は新たな頁を刻む。
地上の人間がこんなにも愛し合ってしまえば、ただではすまされないのではないか。求め合う魂が呼び起こす、悲劇の気配がしのびよる。ユダが感じている予感は、日ごとに高まっていった。
昨夜は、ふと、彼が性の悦楽に酔いしれ、狂っていくかのように感じる瞬間があった。
イエスは、私を本当に愛しているのだろうか。果たして、私は愛される価値があるのだろうか。
亡き父の言葉が思い出された。
ローマ兵に襲われた時、「お前の方が誘ったのだろう」と娘を詰った父。まるで、ユダ、いや、マリア自身に非があるような言い方だった。幼い少女に、そんな考えがあるわけもないのに。
それとも、自分の中に、気づかない内に男の欲望をかき立てる淫靡な何かがあるのだろうか。
兄が亡くなってからは、周りの男達の視線をより強く感じるようになった。彼らの視線はなぜか他の女性たちをすり抜け、マリアへと真っ直ぐに向かうのだった。
男装し、男性名を名乗るようになったのは、そうした危険から身を守る為でもあった。
「父親に言われたように、邪な魔性の性質が自分の中に潜んでいるのだろうか。兄が亡くなったのは、そのせいだろうか。」
ふと、もしイエスに何かあったらとユダは思った。
「どうなろうと私は構わない。でも、私のせいで彼を危険に晒したらどうしよう。」
愛し合った先に何か悲劇が待っているのではないか、と考えた途端に怖くなり、心は畏れにかき乱される。
「ユダ、何を考えている」
二人きりで過ごす時さえも、イエスは、決してユダを本名である‘マリア’とは呼ばない。日中は男性として活動している彼女の生活を気遣ってのことだった。
慌てたように、「何でもない」と笑ってかわしたが、心の片隅に感じた予感は、追い払っても又どこからか滲み出てくるように思えた。
「私は、何も怖くない。」
心を見透かしたかのように、彼女を抱く腕に力を込めた。
私は怖い。
彼の胸に顔を埋めながら、ユダは言葉を飲み込んだ。
あなたの一途さが。
第13話に続きます♪
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