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ぼちぼちやっていくので宜しく願います。








初夏の晴れ渡る空の下に行軍中の軍勢がある。装備の軽さと荷駄の少なさに対照して鬢は塵で白くなり具足は泥に塗れている。それは充分な備えの時が与えられず強行軍を続けてきていることを物語っていた。

先頭には一際目立つ男がいる。他より一回り大きい栗毛の大馬を駆り、遠目にもそれと分かる金色の甲冑を纏い深紅の具足を身に着けている。陣羽織と兜の前立てには雷神像を施されており、彼自身も雷神と名乗っていた。

十二侯の神無月の一部将でありながら、その勇猛さは天下に鳴り響いている豪傑である。

西国の長門から端を発した太平道の反乱は急激に範囲を拡げていた。最早地方の領主での収拾は困難と見てとった中央は西国探題である神無月に反乱鎮圧の命を下したのだ。雷神はその官軍征伐軍の第一陣として急行の途上にあるのだ。

軍対軍とは違い反乱は実体が掴み難い。煽動されている者達を幾ら排除しても首謀者の一派を抑えなければ解決しないのだ。まずは精兵を以って睨め回し、勢いで加担する者達を振い落し被害の拡大を抑えることだ。

雷神は浅黒い額の汗を拭いながら辺りを見回した。今朝方より安芸に入り今は高宮の山岳地帯を行軍している。斥候の知らせでは一里程で無人の古寺があるという。其処を今宵の野営の場所に定めていた。目論見で太平道も本陣を東に移動している筈である。運が良ければ明日にでも遭遇する機会が考えられた。

やがて広がる荒地とともに朽ち果てた建物が見えてきた。


「成程。あれか―――うん?」


宿所と定めている古寺を見とめた時、荒地に見える砂塵が目に入った。馬蹄も聞こえる。

雷神は思わず笑みを溢した。


「明日から探索せねばと思うていたが。態々出迎えとは恐れ入った―――礼儀を心得ている奴だ」


数は官軍と同等の千程であろうか。雷神は後ろを振り返り高らかに声を上げた。

 

「挨拶代わりに愛でてやろうではないか!」


言うか言わぬかのうちに砂塵に向かって突進し始めた。そして兵等も負けじと懸命に駈け出したのを見返りもせずに敵陣へ斬り込んでいった。接触した直後に雷神の槍の餌食になった敵兵数人が宙を舞った。寄る者は次々と二間程の大槍に突き上げては地面に叩きつけられていく。その凄まじい光景を目の当たりにした敵兵に俄かに戦意の喪失が見てとれた。後は無残なものである。逃げ出す者。立ち竦む者。逃げ遅れた者は野に屍体を晒した。

雷神は逃げる者を追うなと指示を出した。征伐軍の威容を見せつけるには充分な戦果であった。


「夜営の準備じゃ!炊煙は惜しみなく上げろよ。賊軍は恐怖に怯えよう」


やがて官軍の陣営は茜色の空に向かって濛々と炊煙を上げた。