「正次。人には譲れぬ物がある。わしにとっては今此の時」
「此の正次とて、譲れぬわ。何とする」
「ならば道は一つ。わしの屍を乗り越えてもらおうか」
正次に一瞬の躊躇いが感じられたが直ぐに隠していった。
「後悔するぞ。御老体」
「ふふふ。わしを案じているようでその実己の腕を危ぶんでいるのではないか?」
男盛の正次に老いたる花月。誰の目から見ても花月の虚勢に思えた。