8日に退院してから、毎晩熱が出る。

むくみと内出血の広がった足が痛くて眠れない。
腕にも注射痕の内出血が拡がってきた。
左眼の血豆はなくなってきたが青紫の内出血は相変わらずだ。

すっかり肉が落ちた背中の骨が横になると痛い。
骨と布団が当たる部分にも内出血ができた。

むくみで腫れた皮膚は脆弱で
皮膚が破れると、血が止まりにくい上、感染症にかかる危険性がある。
それを防ぐため、次女がストッキングを切ってカバーしてくれた。

始めは左足だけだったが、両足になり、両手両足になった。

貧血状態なので風呂に入る体力がない。
看護師の次女がテキパキと身体を拭いてくれた。

泣いてばかりだった次女は、こんなにも看護のプロになった。
立派になった。
病気がなければ、知らなかったことだ。

味覚障害もまだ続いている。
長女が柿をむいてくれた。

甘くて美味しかった。

愛知の義父が作った柿を食べたいなぁ、とTは思った。


酸素吸入器はマックスが5Lだが
後がなくなると怖いので
よっぽどしんどいとき以外は2Lか3L辺りにしている。

身体の中で白血病細胞が暴れている。

1月11日、金曜日。
退院後、通院で初めて輸血した。
長女がビッグホーンに乗せて連れて行ってくれた。

これまでの注射の後がものすごいことになっているので
採血するのに看護師が四苦八苦していた。

採血の検査の結果、
好中球が遂にゼロになった。

好中球は、白血球の一種で感染を防ぐ役割がある。

それがゼロになるということは、

そういうことだ。

こんなにも早いのか。


Tにはやっておかなければならないことがたくさんあった。

初期の入院の頃
病気がよくなったとしても、カヌーはもうできないだろう、
と全て処分していた。

少し走るくらいなら、と自転車は残していたが
臍帯血移植前に1番気に入っていた一台を残して甥っ子たちにあげた。

この自転車を処分しなければいけない。

見積もりに出したら、
30万円で買った自転車が、5万だと言われた。

少しでもお金を遺したかったが、
あまりの安さに二の足を踏んだ。

そしてもうひとつ。
愛車のビッグホーンを処分しなくてはいけない。

ビッグホーンは、いすゞから出た名車だが
既に廃盤でもあるので、メンテナンスにとてもお金がかかる。

通勤はもちろん
カヌーや自転車を載せて26万キロ走った。

エンジンから内装まで
手塩に掛けた愛車だ。

そんな愛車を処分するのは本当に辛いが
大きい車は家族の誰も乗らないので仕方なかった。

もう一台のスイフトより、よっぽど運転しやすいのに。


赤血球を輸血したので風呂に入ったが
浸かると体力を消耗してしまった。

輸血した先からザルのようになくなっていく。

風呂好きのTが風呂に入ったのはこれが最後だった。

両脇を支えて貰わないと、階段を上がれなくなった。
次女の提案で、Tのベッドを一階に移した。


長女が自慢の餃子を作った。

失敗したとか言っていたが
味覚障害で相変わらず味がわからない。

「せっかく美味しい餃子やのに、味がわからんなぁ」
とTが言うと

「あんま美味しくないから、わからんくて丁度いい。」
と長女が笑った。



1月12日、土曜日。
6社に愛車の見積もり依頼をしたら
4社が早々に集まった。

名刺の裏に金額を書いて一斉に出してもらい、1番高い金額の会社にお願いした。

他の会社が、後で五万上乗せすると電話してきた。
そんな姑息なヤツにビッグホーンは渡せない。

この走行距離で、車検一ヶ月前で、他の車なら普通は廃車だろう。

やっぱり自慢の愛車だ。

久しぶりに大好きな車の話ができたのが嬉しかった。

気の良さそうな担当の兄ちゃんは18日に取りに来ます、と言った。
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見積もりで随分体力を使った。


昼間は、Tの隣に孫のベビーベッドが置いてある。
2人並んで寝ているのがなかなかおもしろい。

孫はベッドに設置されたクルクル回るメリーに夢中だ。

たまに目が合うと、Tを見てニコニコ笑う。

赤ん坊の生命力は不思議だ。
周りを元気付ける力がある。
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未来ある孫を見つめて
Tは何を思っただろう。


退院してから、寝る前に三人の娘たちと会話するのが日課だ。

取り留めのない世間話ばかりだが
そんなことが大切なひとときだ。

思えば、そんな会話も病気になるまでしたことがなかった。

もう寝ろ、と娘たちを促して床に着くが
Tは熱と痛みで眠れない。

孫への授乳のついでに
次女がいつも夜中に様子を見にきてくれた。


もう一度、吉野川を見たいなぁ、と、Tは思う。

たくさん遊んで
子どもたちを連れて行って
職場の仲間たちにカヌーの楽しさを教えて
たくさん友人ができた場所だった。

愛犬のアプルもアモネも連れて行った。

暖かくなったら、アモを連れて吉野に行こう。
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やっておきたいことは、
まだまだたくさんあるのだ。