とある女性ととある出来事 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

とある日の22時過ぎ

あもんは自宅マンションに帰ってきた

『そういえば、最近、ポスト見てねぇ~や』と

エントランスのオートロックの前を横切った

その瞬間、後ろから、とある女性が現れた

あもんはその女性を背中で意識しながら、集合郵便受けのダイヤルを回す

鍵を探しているのか?とある女性は鞄をゴソゴソしている

あもんは思った以上に貯まったDMをひとつひとつ確認しながら

近くのゴミ箱に捨てていった

とある女性はオートロックを開け、エレベーターへ向かって行った

 

この時、あもんは少し焦っていた

先に誰かかがオートロックを開けると

しばらくはオートロックが掛からないので

鍵を取りださなくても扉が開けられるからだ

だけと、それは別にどうでもいいことだ

鍵を取り出してまた開ければいいことなのだから

だけど、あもんは多分、焦っていたのだろう

ちょっとした、面倒くさいことをしないで済むと焦っていたのだろう

久々に見たポストには思った以上に不要DMが多かった

焦りつつも必要な郵便物が無いかを確認しながら捨てていった

 

そして「よし!終り!」と少し早足に玄関に向った

あもんが扉の取っ手を持った瞬間“ガチャ”とオートロックが掛かってしまった

「しょうがないか…」とあもんは鍵を差しこみ、鍵を廻した

「あれ?開かない?」解錠の“ガチャ”という音が聞こえない

おかしい…

と、扉の向うに目が行った

 

扉の向うにはあの、とある女性がいたのである

とある女性はあもんに何か言っている

しかし、扉の向うの声は良く聞こえない

あもんはとある女性をしっかり見てみた

とある女性はあもんに必死にアピールをしている

もっと良く見ると、とある女性の指先は

エントランス内部の扉解錠ボタンを押していたのだ

ようやく、分かった

声は聞こえなかったけど、とある女性の口の動きで分かった

 

『あ・い・て・ま・す・よ』

 

とある女性はあもんが焦っているのに気がつき

きっとわざと少し時間を掛けてオートロックを開けたのだろう

しかし、あもんがモタモタしていたのでとある女性は扉を閉めた

「ガチャ」と言ったその瞬間にあもんが現れたモノだからとある女性もびっくりだ

とっさにとある女性は扉解錠ボタンを押した

それに全く気がっ無かったあもん

開いている扉を開けようとしても「ガチャ」とは言わないのだ

とある女性は眼を大きく開けて口を大きく広げてあもんに教えてくれたのだ

 

『あ・い・て・ま・す・よ』

 

それにあもんが気付いたら、とある女性は背を向けエレベーターに向って行った

小さなエントランスである為、エレベーターの前のとある女性にあもんは追いついた

『…………』エレベーターが下りて来た

エレベーターの扉が開き、とある女性が先にあもんが後にエレベーターに乗った

扉を閉めるボタンを押したのはとある女性だった

そしてとある女性は自分の部屋の階数ボタンを押した後に直ぐ言った

『何階ですか?』

『あっ、8階お願いします』

『はい』

と言った瞬間、エレベーターの扉が開いた

とある女性が降りる階は2階だった

 

とある女性が降りる瞬間、あもんはごくごく自然に言った

『ありがとうございました!』

そしてあもんは深々と頭を下げた

頭を上げた時、エレベーターの扉が閉まった

扉越しにとある女性を見ると

そこにはニコっと笑ったとある女性がいた

『い・い・え』

とある女性は眼を大きく開けて口を大きく広げて、言っていた

 

 

 

正直、とある女性の顔は記憶にはない

ただニコッとした時の口元がとても可愛く頭に焼きついていた

 

とある女性とのとある出来事

たった3分弱の出来事だった

それが、何もない毎日のたった3分弱の幸せだった

とても小さな幸せを味わうことができれば

人間は決して不幸にはならないものだと思った

 

 

20136月記 あもん御年39歳