あもん家の長い5日間 ⑤ | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

1211日 夜

 

看護師さんは今後の起きうる状況について親切に教えてくれた

父は今、必死に息をしようとしている状態で

息を止めようとする病と闘っているのだと、始めに言い

これ以上戦い続けると体力が持たなくなるのが必至で

一度、薬で寝て休んだ方が良いというが病院の判断であると言う

もちろん、病は寝ている時も襲ってきている状態だから

父の様子を見て上げて欲しいとのこと

 

今後は呼吸する間隔が長くなっていき

いずれ、肩を動かしながら呼吸をするようになる

唸りを発するのは口が開きっぱなしなので問題は無いが

あまりひどい音が鳴りだしたら、痰が詰まっているから

その時は呼んで欲しいと言った

 

あもん家は順番で仮眠をとり、あもん、母、姉ちゃん、民ちゃん、で父を見守ることとした

コータとパパは明日の為に帰したが、アイカはどうしても病院に泊まるという

 

あもんはアイカは朝ごはんの買い出しに行き、おにぎりをひとつ食べて、先に仮眠をすることにした

アイカと一緒に布団に入り、眠らせるのも目的であった

仮眠室に布団を段取りしてもらい、仮眠室に入るアイカとあもん

『なんだ!この布団、薄っツ!!』と思わずツッコんだ

アイカはそれが面白いのか、ケラケラと笑い出した

『ねぇ、ねぇ、どっちが敷き布団なん?ウフフフ』

あもんもさすがに疲れが出たのか、横になるとウトウトしてきた

アイカは今日、よく泣きよく笑ったので、早くも寝息を立て始めた

あもんもちょっと眠りにおちよう。。。。

 

と、眠りかけた時、ドスン!お腹に何かが落ちてきた

ビックリして目を開けると、あもんのお腹にはアイカの両足が!

そう、アイカは寝相がものすごく悪いのだ

結局、あもんは1時間程度横になっただけだった

 

病室に戻ると、父は眠ったのだろうか?苦しんでいる様子は無い

必死に息をしている声なのか、単なる鼾なのか分からないが

父の呼吸音は病室に響いていた

あもん達はその呼吸音に耳を傾ける

ひとりずつ仮眠を取りながら、残った家族で静かに話をした

 

思い出せば、ここまでゆっくり話したことは久しぶりだった

民ちゃんは山口に住んでいるので、会うのは盆正月ぐらいであったし

それぞれが忙しく過ごす日常で日々交わす会話は限られており

姉ちゃんと母さんとも、ここまでゆっくり話したことはなかったと思う

『父さんがねぇ、この前、はじめて言うたんよ、、』

『仕事ばっかりして、ゆっくり夫婦で話すことがなかったって、、、』

『じゃけぇ、入院してからいっぱい話したけぇ、良かったって、、、、』

母が父の呼吸に耳を傾けながら静かに言った

考えれば、これは父が創ってくれた家族の時間である

父が必死に創ってくれた家族の時間である

ある意味この時間は、これからのあもん家のキーポイントになったのだと思う

 

看護師さんは夜中にも関わらず定期的に来てくれ、診察をしてくれた

よく眠っていますよという言葉に安心し、それぞれが仮眠を取りに行ったが

誰もがアイカの寝相に襲われ熟睡できないとうクスッとポイントもあった

ここは父にゆっくり眠って貰い、目が覚めたら必死に生きて欲しいと思った

 

緩和ケアという病院の看護師さん

改めて考えると、普通の病院の看護師さんとは少し違う

緩和を主に看護しているため、快気という現象はほとんど見られない職種である

あもんが非日常的に思うこの時間も、看護師さんにすれば日常的なのかもしれない

何というゴールを求め看護しているのだろうか

そんな不謹慎な疑問を思ってみたりした

人の死に直面する仕事であって、だからこそ、生きる喜びを少しでも感じてもらいたい

現代の医療では治らない病気であっても、心だけは健やかに過ごしてもらいたい

そんな精神があるに違いないと思った

誰もが計算できない“寿命”という課題を無理して解くことはなく

今、この患者さんにしてあげられる“精一杯の緩和”は何かと考え

“悔いなく人生を全うしてほしい“と願い、心身ともに働いているとも思った

 

患者が“死”という怖い瞬間を“安らか”に過ごせるのは緩和ケアのお陰だと

あもんは今、そう思っている

そう考えると、この職種は神職なのかもしれない

生き物として生まれたからには必ず迎える死という瞬間を

故人がどんな状態で迎えられるかで

残された者は幸せや不幸を感じるのかもしれない

 

2度目の仮眠から帰って来たあもんに姉ちゃんは言った

『さっき、痰が詰まって苦しそうだっけぇ、吸引してもらったんよ』

『寝とるらしいんじゃけど、父さん苦しそうでね、、ちょっと痰に血も混ざっとった』

『血圧も下がっとるみたいじゃけぇ、、、、』

父を見ると眠っているようではあったが、明らかに呼吸数は減っていた

よく見てみると、肩が呼吸ごとに動いている

『あと、1時間で6時じゃね。父さん、起きるかな?』

 

『大丈夫じゃ!きっと目を覚ますよのぉ!父さん!!』

あもんは涙をこらえながら、そう、つぶやくしかなかった