あもん家の長い5日間 ③ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

1211日 夕方

『民ちゃん来たよ~』アイカが病室に民ちゃんを案内してきた

民ちゃんとは父の実弟であり、山口県から車でやってきた

何度かこの病院にもお見舞いに来たことがあった

『新たらしいナビじゃけぇ、この前と来た道が違うわ!この前のは古いんじゃ』

とか言いながら普通にお見舞いに来た

もちろん、母から連絡を受けて来た民ちゃんであったが、時間的にもダッシュで来た感じだった

『プーチンが来るというのに、、まぁ、ええか~』

民ちゃんは警備の仕事をしており、山口県はプーチン大統領が長門市に来るという事で厳戒警備をするために警備会社は大忙しの時期であった

『兄貴、どうかの~』

父は酸素を鼻から吸引し、首から痛み止め薬を点滴で入れている

呼吸をするのが精いっぱいで話すことができなかったが、民ちゃんを見て笑っていた

アイカはいつの間にか泣き顔から笑顔になっており

いつものわんぱくアイカとなって、元気玉を放っていた

『アイカ、コータはどこいったん?』

あもんはアイカに聞いた

『んっ?ポケモン探しにいったんじゃない?』

あもんが来る前に来ていたらしいが、パパと家に一度帰っており

アイカの予想ではその道中でポケモンGOに夢中になっているみたいだ

『おい!どうや?』

と次に顔を出したのはヨッちゃんだった

ヨッちゃんはあもん母の弟で、あもんの叔父となる

あもんや姉ちゃんのおしめを変えたりお風呂に入れて貰ったりしている馴染みが最も深い親戚である

父とヨッちゃんは若い時から一緒に仕事をしており

若い父が東京で仕事をしていた時にヨッちゃんを誘ったらしい

父が仕事を止めた今でもヨッちゃんは広島で働いていて

今でも二人が会えば、仕事の事や会社の事で話題は途切れなかった

『ヨッちゃんは今日休みじゃけぇ、散髪したついでに来たらしいんよ』

あもん母はちょっと不思議そうな父の顔を伺って言った

 

あもんは病室が人で一杯になったので、アイカを連れて外に出た

『ねぇねぇ、あっくん、あっくんも今日、お泊りするん?』

アイカがあもんに聞いてきた

『うん、多分するよ。なんで?』

『アイカもお泊りするけん!』

『えっ、アイカ、ちゃんとわかっとるん?』

『うん』とアイカは静かに頷いた

『先生になんて教えてもらったん?』

というあもんの問いにアイカは答えなかったか

『ママが良いって言ったもん!』と言うので、それ以上は聞かなかった

 

そうしていると、コータとパパが病院に帰って来た

『あっつ!焼き肉マン!焼き肉!焼き肉!』

あもんを指さしてコータが言い始めた

全く意味が分からないが、あもんは最近、焼き肉マンらしい

『なんなん?焼き肉マンってw焼き肉食いたいんか?』

という問いかけにもクスッと笑って無視をするコータ

コータは幼稚園年長で最近は手が付けられない程のやんちゃ坊主になっていた

みんなが曰く、あもんの幼き頃とそっくりで、かなりの自由人

人懐っこさがあるが、ずっとベタベタはせず、自分の気分で甘え始める役者だ

姉ちゃんはアイカと同じくコータにも父の事を説明したらしいが

多分、理解はしていないだろうと言う

 

ヨッちゃんは10分足らずで病室から出てきた

多分、あもんと気持ちが同じで苦しむ父の顔を見るのが辛いのであろう

『こないだ来た時は病人じゃない顔しとったがの~』

『まぁ、わしも一緒に働きよったけぇ、同じ病気になるかもの~』

『そうなんよ、父さんの病状って、国が言いよることが当たっとるんよ』

30年、40年後に発症するとか、なんなん?』

『国が推奨しとってからに、、、』とあもんは言ってもしょうがないことをヨッちゃんにぶつけた

『まぁ、あの時は誰もが分からんかったことじゃぇの~』

『じゃけぇ言うても、みんながなるわけじゃないのに!どうしてお父さんなんじゃ!』

『危篤状態って、波みたいなもんじゃけぇ、わしは大丈夫じゃと思うよ』

『前の病院の時よりかは全然顔色がええけぇの~』

『わしは明日仕事じゃけぇ、帰るわ、また来るわ』

と言ってヨッちゃんは帰ることにした

 

『ヨッちゃん、バイ、バイ~♪』と見送るアイカに

『あんた、友達じゃないんじゃけぇね!』とツッコむ、姉ちゃん

ヨッちゃんはクスッとしながら帰って行った

 

義兄弟であり師弟関係でもあった父とヨッちゃんの会話は

この日が最後であった