幸と不幸と現実と 45 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1996年から1997年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『バババババババン』
あもんは聞きなれない音で目が覚めた
『バババババババン』『バババババババン』『バババババババン』
と再び音が鳴ったとき、テントが急に揺れ始めた
『えええーなんだ?』と思ったが、あもんは大体予想がついた
『バババババババン』『バババババババン』と三度鳴り
音が無くなった瞬間にあもんはテントから顔を出した


遠くにいたのはエアガンを持っていたのは砂糖さんだった
『あははっは!あもん君、おはよう!』
『あははは!やっぱり、そうなんですねー』

あもんは寝込みを砂糖さんに襲われたのであった



『おお!パワフルじゃん!生きてたか!いつ海から帰ってきた?』
と同じく寝起きエアガンをくらった大将が言っていた
砂糖さんの隣にいたのはパワフルさんと言い
大将が北海道旅で出会った仲間の一人であった
パワフルさんは他の仲間がライダーである中で唯一チャリダーだった人だ
自転車旅ではあるが、ライダーと同じように行動を共にした
年はあもんより少し年上な感じで、長い角刈りで目が真ん丸い
背は高くないが身体がごつく、腕の太さは普通男子の2倍ぐらいあるようであった



『はい。この前です』
『ずいぶん、長くいたな~2年以上海にいたんじゃねぇの?』
『いやいや、海にいたのは1年ぐらいっすけどね、1回帰ってきて、もう1回行ったんですよ』
『2回行ったの?相変わらずパワフルやな~』

あもんはこの会話に興味が沸いたのでパワフルさんに聞いてみた
『海って、どこか海外の島とか旅してたんですか?』
『いやいや、マグロ採ってたんだ』
『え?もしかして、マグロ漁船ですか?』
『うん。そうだけど』



パワフルさんは自転車で日本一周旅をした後
お金を貯めるためにマグロ漁船に乗ったのだという
遠洋漁業であるため、ほとんどの生活を海で過ごした
マグロを採る仕事以外はさほどやることがないらしく、もちろんお金も使わない
乗船前に全ての給料を貰うため一度で数百万のお金を手にすることが出来た
遠洋漁業の間にアメリカなどに船が着き休暇が与えられた
その時ぐらいお金を使うだけで、十分に陸を満喫できた上にお金が残った
しかし、普段は海上で力仕事である漁を続ける
普通で考えると一年も耐えられる仕事ではない
それをパワフルさんは2回も続けたのだという
その名の通りパワフルだ



『俺、海が好きだから』
あもんの不思議そうな顔を見たパワフルさんが言った
口調からやさしい人みたいだが行動と体格がパワフルだと思った



『まぁまぁ、立ち話もなんなんで~』
と大将は隣のワイナリーを指差していた
昨晩に続き今朝の朝一から大将はワインを飲む気であった
人数が増えたサカナ組一向はお腹が減る昼前までワイン工場で歓談をした


昼飯をそれぞれで済ませた後
あもんは初めての迎えワインでまた酔っ払い眠ってしまった
夕方、目が覚めると焚き火には大きな円ができていた
他のサカナ組メンバーが続々と到着したみたいだった



『おお、夕子ちゃんじゃ!』
あもんは青森ねぶたで一緒だった夕子ちゃんと再会をした
『なんだよー男かよー』と夕子ちゃんと初めて会った人は皆言う
顔も性格もまるっきり男なのだが、茶髪ロングでいつも髪を後ろで束ねていたから
後姿が女の子みたいだということで夕子ちゃんと名づけられた男だ
その他に旦那さん、ニッパさん、いくさん、あニッパさんと青森や鳥取で会った旅人がいた
あもんが初めましての人はまわしさん、ベルサイユさんだった

それからごく自然に焚き火を囲んだ宴会が始まった
砂糖さんは相変わらずスーパードライの4リッター缶を両袖に置いていた
話題はやはり2年ぶりにみんなの前に現れたパワフルさんへの質問だった




『で、どうだったよ?毎日、海海海でよ~』
『どこ見ても、海だろ?飽きるどころか発狂したくならない?』
『いえ、基本、海が好きですから』
『好きだからって、年中は耐えれないだろ』
『でも、毎日変化がある生活では、結局はみんな、ひとり芝居をしていると思うんだ』


パワフルさんは名前に似合わず静かに淡々と語り始めた

『日本社会では自分主演のひとり芝居をしなくてはいけなくて、、、』
『忙しい毎日では深く考えることを忘れて嘘芝居になっちゃってしまうんだ』
『世の中に変化があるのに、人生は静かに幕を上げて幕を下ろして』
『空白のページが自分史を重ねていくばかりと思うんだ』


パワフルさんは名前に似合わず繊細な性格のようだ

『でも、それはそれでよ、人格を使い分ければいい話ジャン』
『仕事と遊び、どっちも一生懸命して、多重人格できればいい話だ』


大将と旦那さんは同じ意見のようだ

『僕はそこまで器用にできないっすよ』
『でも一日中、海と空を眺めていたら、自分がこの世界に存在していないと思い始めて』
『たまに侘しくて寂しくて寒くなって太平洋の真ん中で凍え死にそうになるんだ』
『そうなったらやばいから、無理やり自分史に“愛”とか全く関係ないことを書くんだ』
『ふと、我に返ったらそれがやたら恥ずかしくなって、自分の存在を確かめられるんだ』


パワフルさんは名前に似合わず深く自分と向き合っている

『パワフルはもっとお調子者になればいいじゃん』
『ハッピーにスキップして誰かに足を引っ掛けられ転べばいい』
『隣にいたエキストラが笑い始めたら儲けもんだ』
『みんなが俺を見て笑い始めたら、安心して眠ればいい』


話が段々とややこしくなってきた
深いようなスケールが大きいような話が焚き火を中心に語られている
刺激的な空想が多いけど、どこかで現実に繋がっているような話が多い
だた、酔っぱらって訳が分らなくなっている人も多い


『俺はよく映画を見るぜ』
『この前見た映画タイトルは“I 愛 I”俺は俺を愛するっていう意味な』
『工場では俺ストラップがライン生産されているんだ』
『ワイドショーでは俺面犬が話題になっている』
『俺がボケて俺がツッこむ俺漫才が面白いんだ』
『あっ、この映画は主演:俺,助演:俺,監督:俺,監修:俺な』


ダメだ。大将は完全に酔っ払って訳が分らなくなっている
大将の親友である砂糖さんは隣でスパードライ2缶目を飲み干していた


『で、パワフルはその貯めたお金でまた旅でもするのか?』
『いえ、専門学校に通いますよ。福祉関係の』
『都会で一人暮らしとかすんの?』
『いえいえ、もったいないから実家暮らししますよ』
『最近、妹がよく彼氏連れてくるから、ウザイんだけど』


パワフルさんは名前に似合わず普通の人だった






誰もが皆、悩みを持って生きている
悩みの無い人生なんて無いものだ
というか、悩みの無い人生ほどつまらないものは無いであろう
ここに集っているみんなの悩みは大きいと思う
だが、みんなは悩みにぶつかった時に行動をしている旅人だ
一人旅もそのアクションのひとつであろう
行動を始めた旅人は再び考え込む
旅先にてあらゆる感性をむき出しにし、答えを見つけに行く
答えはいつも見つからないが
答えを見つけるために焚き火を囲みながら酔っ払っているのが幸せなのかもしれない
幸せとはごくごく自然にそこにあるものだと思ったのは
このキャンプ場で酔っ払っているみんなの顔が幸せに満ちていたからだった



続く