さくらんぼとふたりんぼ 12~あもん史 妄想編~ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『ここが羅臼国設か~』
あもんは羅臼国設キャンプ場に着いた
朝に900草原牧場を出てたったの2時間で着いたのであった
羅臼国設キャンプ場は知床横断道路の途中にあった
目の前に“熊の湯”という無料露天温泉がありキャンプ場も無料である為
北海道キャンパーにとって居心地の良いキャンプ場であった
羅臼川に面しており魚釣りをしているキャンパーもいる
時間が十分にあったのであもんは知床半島に行ってみた
海岸沿いにある露天風呂“セセキ温泉”に入って更に先に行ってみた
道路が行き止まりになった所には“熊の穴”という民宿兼食堂の店があった



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ここは熊やトドの肉を食べさせてくれる有名な店だ
店の駐車場を見ると見慣れたバイクが止まってあった
ハカセのKLXである
あもんは店の中に入ってラーメンを食べていたハカセを見つけた
『お~あもん!ひさしぶり!』
『ここのトド肉は最高なんだ!あもんも食べてみな!』

ハカセに薦められてあもんは初めてトド肉を食べた
パサパサ感があり小学生の頃に食べた鯨の肉を思いだした
『あもん!ヒカリゴケって行ったか?』
『いや、行っていないけど、コケが光るのか?』
『そうらしいよ!昔、そこで食人の疑惑をかけられた軍人がいて』
『映画にもなったんだぜ、知ってる?』
『三国連太郎、奥田瑛二、田中邦衛、杉本哲太がいい芝居してんだ!』
『食人になったらコケが光って見えるらしいぜ!』

そう言いながらハカセはトド肉を口の中に入れた
『もうひとつ食べる?』とハカセに薦められたがあもんは断った


あもんはハカセと一緒に羅臼国設キャンプ場に戻った
ハカセは釣りに行くと言って出掛けたのであもんは熊の湯に行ってみた
熊の湯は男女別湯で女湯は囲われていたが男湯は解放感たっぷりな露天風呂である
とりあえず、男湯を覗いてみると
なんとも懐かしい顔を見つけてしまった


『ナットウじゃないか!』

あもんは思わず叫んでしまった
ナットウとはあもんと同じ福山大学で同じ学科の奴である
あもんの影響でバイクに乗り始め
あもんの所属するツーリングチーム“R2”にも所属している
この夏、R2の中で北海道をひとり旅しているのは
あもんとモツさん、ザキヤマとナットウである
あもん達は偶然の再会を期待して敢えて旅ルートを教え合わなかった
“いつか会うだろう”と思っていたけど意外にも誰にも会わなかった
そして今、ナットウと偶然の再会を果たしたのである
あもんの声に振り向いたナットウは思わず前を隠した
何故だか恥ずかしそうな顔をしていた
『おおお~まさか、裸の再会とはな~あははは』
とあもんはナットウに話しかけた
ナットウは『あもんちゃんならいいか…』
と意味深な事を言ったが
あもんはあまり気にはしなかった




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ナットウもあもんと同じように旅先で仲間を見つけ
このキャンプ場の噂を聞いて来たらしい
お湯から出たあもんはナットウのテントサイトに行った
そこにはナットウが出会った仲間が座っていた
『こんにちは~』とあもんは挨拶をした瞬間、また驚いた
『こんにちは~』と返してくれた顔に見覚えがあったからだ
『ジェーンじゃねぇ!』あもんは見覚えのある顔に聞いてみた
『あもんさん!あもんさんっすよね!ひさしぶりっす!』とジェーンは少々興奮気味だった
ジェーンとは今から約1年前にあもんが鹿児島を旅した時に
ライダーハウス“プラグポイント”で同連泊した仲間だった
プラグポイントを拠点に二人でツーリングに出かけ夜な夜な飲んだ仲なのだ
そこで二人は“絶対に旅したい所”を北海道と屋久島に絞った
二人とも絶対に旅してやると一年前に誓ったのであった
あの時、連絡先を聞かなかったので北海道を旅することも知らなかったのである
『あもんさん!僕、チャリダーになったんですよ!』
ジェーンは自慢気にあもんに報告をした
『やっぱ、バイクよりチャリっすよ!バイクは速すぎますって!』
ひとつ年下のジェーンは旅人として成長しているなとあもんは思った
3人で話しているとあもんはもうひとり知った顔を見つけた
『あっ!ヤブさん!ヤブさん!』あもんはヤブさんを見つけたのだ
ヤブさんとは数日前に摩周岳に一緒に登った旅人であり900草原牧場の同泊者である
摩周岳に登った次の日に出発したヤブさんもこの羅臼国設キャンプ場に辿り着いたみたいだ



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あもんはこのキャンプ場で運命的なモノを感じた
旅人はそれぞれだけどどこかで繋がっているのだとも感じた
この日本を広いと捉えるのか狭いと捉えるのかが分からない時がある
狭いと感じるのはこの様な予期せぬ再会があるからである
多くの旅人があり多くの思想があるのだけれど
結局、人は回帰するのだろうか
心安らぐ処は結局、ひとつなのだろうか…



そんなことを考えているとハカセが帰って来た
『オショロコマが入れ食いだぜ~』とハカセは嬉しそうに言った
この夜は結局この5人でハカセが釣ってきたオショロコマを魚に飲んだ
最後にオショロコマの骨酒を回し飲みしてあもん達はぐっすり眠った


次の朝、起きてみると別のサイトにいたシンさんや福さんを見つけた
ヤブさんとジェーンは旅立っていったので
あもんとハカセとナットウはシンさんのサイトに引っ越しをした
するとそのサイトにはニョウイが来ていた
ニョウイとは青森ねぶたの仲間であもんと同い年の旅人だった
ハカセ繋がりでサカナ組に入ってきたらしい
酒を飲むとやたらと便所に行く癖がありそこから“尿意”と名付けられたらしい
又、ご飯の時は米だけを炊き、おかずはみんなのおこぼれを貰うのが得意だった為
もうひとつのキャンパーネームは“ハイエナ”とも言われていた
『おぉ~ニョウイ!久しぶりじゃね~覚えとる?』あもんは再会を喜んだ
『覚えてるよ~あもん君でしょ~広島弁がカッコイイあもん君でしょ~』
面倒くさそうに話すこの口調はニョウイの特徴であった
サカナ組には東日本の旅人が多く西日本は少ない
よって広島弁のように穏やかな口調はニョウイにとってよいペースだと言った
加えて仁義なき戦いの影響からか“広島弁はカッコイイ”という印象をニョウイは受けていたらしいのだ
『広島弁、教えてよ~』とニョウイに何度か頼まれたが
県外の人にはどうやら難しいらしく真似をしてもイントネーションが完璧にならない
よって、県外の人が広島弁を真似するとどうにも違和感があった
あもんは“ぶち”という広島弁をまずニョウイに教えたが
ニョウイは『チョーぶちじゃね~』と訳のわからない言葉を発していた


結局、この日は何処にも行かず羅臼国設キャンプ場で過ごした
夜になったらいつものようにみんなで輪になって酒を飲んだ
『ナットウ!ナットウっていうんや!納豆、めっちゃ嫌いやねん』
生粋の関西人である福さんがナットウに会った時の最初の言葉だった
これに反論したのはハカセである
何故ならハカセは水戸出身であり納豆魂があったからであった
『福さんは本当の納豆を食べたことがないからですよ~』
『僕も大阪で納豆食べたことあるんですけど…確かに美味しくない!』
『水なんだよね~水、ほら、大阪って琵琶湖が水源でしょ』
『琵琶湖が水源ってことはまず、滋賀県の人が残した水を京都の人が飲んで。京都の人が残した水が大阪にやってくるみたいな』

『水の道のりが長いから基準までしようとすると塩素臭くなるんだよね』
ハカセの納豆議論はひとりで続いた
『納豆は109回かき混ぜなきゃ嘘だよ!90回を超えるぐらいにバチバチ言いだすから!それが美味しいサインかな』
『納豆はご飯にかけるモノじゃないんだ!完璧なるおかずの一品だぜ!!』
『あっ、卵は入れないよ!塩とからしのみなんだ!』

同じ茨城県出身のニョウイはそれを聞いても何も反論も賛同もしなかった
どうやらハカセはただ単に納豆が好きでこだわりがあるみたいなだけだった


シンさんもこの再会を喜んでおりニコニコしながらお酒を飲んでいた
『シンちゃん!ファイヤーヌンチャクやって~な~』と福さんは言った
『えっ、そうだね~気分がいいからやろうかな~』とシンさんは同意した
ファイヤーヌンチャクとはシンさん隠し芸のひとつであり
その名の通り、火を着けたヌンチャクを振り回すという芸である
シンさんが気分がいい夜にしか見ることができなく余りお目にかかることはない
あもんもまだ見たことはなかったが噂が噂を呼びもう有名になっていた
『みなさ~ん、シンちゃんのファイヤーヌンチャクが見れますよ~』ハカセが他のテントサイトに言って回った
『おお~』と言いつつゾロゾロとみんなが集まり始めた


よく見ると、その多くは青森ねぶたでハネトライダーとして活躍していた面々である
ハネトライダーはねぶたが終わると北海道を旅して
夏の終わり頃はこの羅臼国設キャンプ場に集まるのがひとつのルートだったのである
誰がボブマリーの音楽をかけ始めた




シンさんは自慢のヌンチャクに灯油をかけヌンチャクに火を着けた
『燃えちゃ~いけないからね』と上半身裸になったシンさんはヌンチャクテクを見せた
誰かが『ファイヤー!』と叫んでいる
シンさんは気持ちよさそうに火が消えるまでヌンチャクを回していた
決して激しく回すのではなくゆっくり火の軌跡を造る
鮮やかな軌跡が描かれ瞬く間に消えたが
ハッキリと目には刻まれていた
直ぐに無くなる軌跡の美しさを願って人は待つ
一瞬なんだ、このひと時なんだ
美しさとは儚く崇高なものなんだ
あもんはシンさんの放つ火の軌跡を見ながら思った


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こうして、ボブマリーの音楽が流れている羅臼国設キャンプ場は
静かに眠りについたのであった










続く