さくらんぼとふたりんぼ 1~あもん史 妄想編~ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします







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あもんは東へ向かって走っていた
東へ東へ、遠くへもっと遠くへ
『過去は忘れるモノではない』
『悲しい過去を楽しい未来で塗り替えてやる』

そんな想いの焦りからなのか
あもんは高速道路を新潟方面へかっ飛ばしていた


西日本のライダーが北海道へ上陸するには舞鶴からフェリーに乗るのが一般的であった
舞鶴からは小樽へとフェリーが運航しており船中泊して北海道へ上陸するのである
しかし夏の北海道の人気からこのフェリーは数カ月前から予約が殺到し
あもんのように急に北海道行きを決めた者は予約を取れるはずがなかった
『だったら陸走でいけばいいじゃん!』と単純に思ったあもんは
広島から青森まで陸走し津軽海峡をフェリーで渡るルートを選択したのだった
北海道への憧れはライダーなら誰もが一度は抱くものであり
あもんの所属するR2メンバーでもあもんの他にモツさんとザキヤマ,ナットウが行くことになっていた
ザキヤマは段どりのいい男で舞鶴からのフェリーをおさえていた
あもんは出発が一緒だったザキヤマと舞鶴で別れを告げ
ひとりで青森を目指していた


青森まで約1800km
あもんにとっては初めての大移動であったが、辛いとは思わない
この先には希望があると言っては大げさすぎるが
初めて訪れる東日本に対して多くの期待を持っていたのである
そして何より“ひとつの別れ”を経験し、あもんは走り始めた
これからは訪れるのは“出逢い”である
未開の地を旅して新たなる人と出逢える
それが旅の醍醐味であると言えよう
新潟まではひたすらに高速道路を走り続けた
走り始めて二日目、新潟で一般道に切り替え日本海沿いのR7を北上した
この辺りからライダーやチャリダーの数が多くなり旅意識が徐々に出始める
しかし天候は出発から悪い。雨が降ったり止んだりが続いていた
あもんは走り続けた
『この雨を涙としよう』『雨はいつか止むんだ』
そう思いつつ走り続けた








秋田に入り山側にルートを変えた
田沢湖に立ち寄ったが余りの寒さに温泉が恋しくなったので
あもんは乳頭温泉郷に行くことにした





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“鶴の湯”に入り完全復活したあもんは八幡平に辿り着いた
そこで出逢ったライダーに青森の酸ケ湯温泉は最高だと聞いた
あもんは十和田湖を周り酸ケ湯温泉野営場で3日目のキャンプをすることに決めた
このキャンプ場は登山家が多くキャンプするところであり設備が整っていた
あもんは到着後早速、酸ケ湯温泉に入った
湯治場として大きな旅館と並立しているこの温泉は
江戸時代から続く名湯で1954年に国民温泉第1号となった
300平米もある総ヒバ造りの“千人風呂”が有名である
脱衣室と内湯は男女別であるが奥にある千人風呂は混浴である
混浴であるため小さな看板だけが境となっている
しかしそこは温泉の湯気で覆われており加えて乳白色の温泉色によってお互いの顔すら見ることができない
あもんは旅の疲れを酸ケ湯温泉で癒しようやく1800kmの大移動を終えたのであった
キャンプ場では多くのライダーもおり、あもんはいつも通りに情報収集に取りかかった



『青森は今の時期、一番熱いらしいよ』
『熱いって夏だからですか?』

あもんは隣にテントを立てた旅人と話していた
『いや、そういう意味じゃなくて、今、青森ではねぶた祭りやってるじゃん』
『ここまで来たなら一回は見た方がいいよ。日本3大祭りのひとつだからね』

ヤマハのSERROWに乗っているフリーターの旅人はあもんに教えてくれた
『へえ~そうなんですか~見るにはどこに行けばいいのですか?』
『そうだね~ライダーは青森港のフェリーターミナルでキャンプしているらしいよ』
『そこからだと青森市内から近いしさ~いいんじゃない?』
『ええ~ライダーはフェリーターミナルに集まるんですか~』
『よし!明日そっちに行きます!ありがとうございました!』

あもんの明日の旅先が決まった
旅の計画は綿密に立てない方が楽しい
旅先には旅先でしか収集できない情報があるからだ
旅先で出会った仲間の情報こそ確実な情報だともいえる
あもんはこの青森までの計画を立ててはいたが不運な天候により全く計画通りにはならなかった
計画を立てていたからこそ、悔しがるわけである
だからあもんは途中からその計画を無視することとした
実際、この酸ケ湯温泉にも途中であった旅仲間から聞いた情報である
あもんは次の朝、青森フェリーターミナルに向って出発をした


酸ケ湯からフェリーターミナルまでは近かったので先に津軽半島の竜飛崎まで行ってみた
朝から降っていた雨は次第に晴れ間が見え始め竜飛崎では絶景を見ることができた
この旅で初めての絶景にあもんは感動をした
この海の下には津軽海峡線が走っておりこの海の向こうには憧れの北海道がある
青森ねぶたを今晩見て明日北海道に渡ろう!
あもんは急にウキウキし始めたのであった
目的のフェリーターミナルには昼過ぎに到着をした
見るとテントサイトにはテントだらけでありテントを張る場所を探すのに苦労をした
何個かのグループでキャンプをしているようでありその証拠にひとつの卓上に数個の椅子が囲まれている
ようやくひとつのテントサイトを見つけあもんはそこにテントを張った
テントを張った後、情報収集の為に辺りを見回したが人はまばらだった
近くにあった椅子サークルの近くであもんは誰かが帰ってくるのを待っていた



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数十分後、何人かの男女がこのサークルにやってきた
『あっ!誰かいるよ~』
『ん?誰??』

女の子の声が聴こえた
『こんにちは~あもんと言います』
あもんはその集団に話かけた
『青森ねぶたが見れるって聞いてここに来たんですけど、ここにテント張ってもよかったですかね?』
『あ~いいよ!いいよ!丁度、今朝空いた所なんだ~』

あもんと同い年ぐらいの男が答えてくれた
『ねぇねぇ、どっから来たの?大学生?』
女の子が聞いてきた
『広島から来ました。うん大学3年生』
『ええ~3年っていったらウチらと一緒だね!でもヒロシマって遠いよね~』
『あっ、わたし、チェリーって言うの!よろしく!』
『チェリー?』





あもんは不思議に思った
彼女は見るからに黒髪の日本人である。とても外国人には見えない
『そう、そして彼がハカセ、この人がゲポゥさん!』
あもんはますます首をかしげてしまった
『あははは、わたしたち“キャンパーネーム”と言ってあだ名で呼び合うんだ』
『面白いでしょ~』
『ハカセは何でも知っているからハカセ。でも漢字で書くと博士じゃないんだ。墓世なんだ~』
『だって、博士じゃ、カッコよすぎるでしょ!』

『ゲポゥさんはゲップをする時いつも“ゲポゥ”と言うからゲポゥって言うんだって』


話を聞いてみると彼らの集団は全国から集まった仲間たちであった
年齢も職業も皆違いそれぞれは一人旅である
何処かの旅先で出会った仲間が再会をしたいと思い住所交換をして
そして次は何処で逢いましょうと約束をして別れるのである
ひとりの旅人がまた、どこかで仲間と出逢う
その仲間にこの集団を伝え、今度はどこそこで集まるからおいでよと誘う
そんな仲間が徐々に増え旅人の集団は造られていった
ここでキャンパーネームを付けることにより非日常感を味わうことができ親近感も湧いてくる
キャンパーネームで呼び合うために本名を知らない仲間たちもいる
しかしそれはそれでいい
日常では会えない仲間たちが非日常で繋がっているから本名なんて要らないのである
あもんはそんな集団のひとつに初めて出逢ったのであった


ハカセとチェリーは茨城の出身であり同じ大学であもんと同じ年であった
ゲポゥさんはあもんよりひとつ年上で北海道に住んでいた
彼らは2年前、北海道の旅で知り合いになりハカセがこの集団と繋がっていた為ここに辿り着いた
そんな3人にあもんは出逢ったのであった



『んで、青森ねぶたを見るには何処に行けばいいんじゃろうか?』
すぐに仲良くなった3人にあもんは聞いた
するとハカセが答えた
『見る?見るだけじゃ~もったいないよ!参加しなくちゃ~あもんも今晩から参加しようぜ!』
『そうそう!ウチらねぶたに参加する為にここに集まっているんだよ~』チェリーが言った
『あもん、一緒に跳ねようぜ!ぶっ飛ぶしかないっしょ!』

ねじりハチマキが似合うパーマをかけていたゲポゥさんが言った
『え!参加ってパレードに参加するの?そんなんできるん?』
『うん、基本的にはねぶたは参加自由なんだ。ねぶたの後ろで跳ねる“跳人(ハネト)”ってやつ』
『ここでは毎年その段取りをしてくれる人がいて、ここは全国のライダーの集まりなんだ』
『ここでキャンプしている人はみんなねぶたに参加する為に来ているんだぜ』

あもんは驚いた。ここには100を超えるテントの数がある
そのみんながこのねぶたに参加する為に全国から集まっているのである
『でも、衣装とかもってないし…』
『衣装ならそこのホームセンターで売ってるよ!今から買いに行こ~~』

チェリーが楽しそうにあもんの手を引っ張った
あもんは誘われるがままにホームセンターで8000円の衣装セットを購入した
『あはは!あもん君もチェリーの仲間になったね!』
チェリーは楽しそうに笑っていた


あもんは“別れの悲しみ”から逃げる為に北海道を目指した
現実的な明日が怖かったと言っても過言ではないであろう
あのスミ子との別れではあもんは涙を一粒も流さなかったけど
実際は明日が来るのが怖かったのである
だからあもんはすぐさま遠くに逃げた
そして遠く遠い青森で、新たなる出逢いがあった
この出逢いはあもんの人生観を変えさせるきっかけになっていった
旅の計画は綿密に立てない方が楽しい
あもんは未だ、北海道の地は踏んではいない





続く