セブンの女 5 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1993年から1994年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


『あもっちゃんの元カノが男と腕組んで歩いとったで』
『ワシのマンションの先輩の部屋に出入りしよるで』

入学後すぐに友達になったジュンペイとむっちゃんが食堂で話していた
『もう、日替わり定食も飽きてきたの~』
そう言いながらあもんは二人の前の席に座った
『…』
『どしたん?かわいい娘でも見つけたか?』

バツの悪そうな二人にあもんは問いかけた
『実はのう…』



『そんな報告いらんのんじゃぁ!』
あもんはそう言ってその話題をそれ以上は進めさせなかった

あもんとアミが付き合っていたということは入学早々みんなの公認となり
そしてあもんがフラれたということももうみんなが知っていた
あの時からもう3ヶ月が過ぎていた
あもんとアミは学科が違っていたが1年生の講義は一般教養がメインである
よって同じ講義を受ける時がこの時は多かった
付き合っていた頃は隣の席に座り講義を受けていたのだが
別れてからはもちろん遠くの席を選ぶようになった


あもんはあれから納得のいかない別れの理由を考え続けていた
『普通の人になった…』そんなアミの言葉がいつまでも鮮明に残っており
数学の方程式に当てはめてみても漢文の読み方で読んでみてもさっぱり意味が分からなかった
なぜなのだ?何がいけなかったのか?オレはどうすればよかったのか?
全てが疑問符で終わるこの問いかけをあもんは誰にも教わろうともせず
男と楽しそうに話しているアミを遠目で見つめながら胸がズキズキする毎日だった
胸の痛みは家に帰っても続き灯りを消してベットに横になると更に痛みが増していった
そして、『オレは何でこいつを好きになったのだろう?』と自分の感情さえも疑うようになった
どこがあもん好みでアミのどんな性格に惚れていたのだろう
そんな感情の答え合わせをしても答えは見つかることは無かった



『あもん!コンパ行こうや!!』
ある時ジュンペイがあもんを誘った
『おう、そうじゃの~あもんも新しい彼女見つけたほうがエエで』
『今、福山の服飾専門学校の娘と繋がりがある奴が話を進めとんじゃ』
『あもん、行こうで!』
『うん…あんま気が進まんけど…』

あもんはコンパというものが未経験であったし、正直まだアミを忘れられなかった
『まあまあ、あんま深く考えんと!どんどん出逢いを求めんにゃいけんで』
半分強引にジュンペイは事を進めあもんはコンパに行くことにした

福山駅前にある居酒屋の座敷にあもんとジュンペイは行った
『で、どの娘たちなん?』
『えっ、ここにおるみんなじゃけど』

ジュンペイは答えた
見渡すと大広間には女子が30人近く座っていた
男子もあもんもしゃべったことの無い奴もいるし他学科の奴もいる

『なんか、専門のクラス全員で行こうというノリらしいで』
『同窓会じゃないんじゃけん!これコンパか?』
『あははは、まぁそんなんどうでもええじゃん!』

あもんは空いている席に座りこのコンパの幹事の音頭によりコンパは始まった

『はじめまして~サキですw』
あもんの隣に座っていた娘が話しかけてきた
『あっ、どうもあもんと申します』あもんは緊張気味に返した
サキは茶色い髪にウェーブをかけており胸の開いた青いスーツを着ていた
同級とは思えない色気を備えており若干、香水の匂いもしていた

『ねぇねぇあもん君は?』サキはあもんに質問攻撃をし始めた
お酒も進みあもんも徐々にサキのペースに慣れてきた
サキは長い髪をかき上げ横からあもんを覗きこむように見ながら話していた
時折、そっとあもんの膝に手を添えてあもんのグラスにビールを注ぎながらニコっと笑った

『ねぇねぇ、あもん君は車の免許持っとるん?』
『いや、バイクは持っとるけど車はもってないよ』
『へぇ~バイクか~かっこエエね、ウチも乗ってみたいな~』
『ウチもこの前、車の免許取ってね~お兄ちゃんの車で練習しとるんよ』
『へぇ、何の車乗っとるん?』
『スカイライン!中古じゃけど、GTS-R R31よ』
『沼隈のグリーンラインで走りよるんよ』
『ねぇねぇ今から行ってみる?』

化粧直しから帰って来たサキはいきなり誘いモードになっていた
しかしあもんはこの時からサキの香水臭さが気になり始めサキと距離を置きたくなったのだ

『オレはええわ~2次会はカラオケ行くみたいじゃし』
『ふ~ん、あもん君ってつまらんね』

そう言ってサキは他の席に移っていった
改めて辺りを見廻して見ると、ひときわ男共に囲まれている娘がいた
その娘は少し控えめに上眼使いで男共の話を聞いていた
ワハハと笑うことは無くクスクスと笑っていた
先ほど去ったサキとは正反対な風格でその娘は男どもに囲まれていた


一次会がお開きになり二次会はこのビル地下にあるカラオケだと幹事はみんなに伝えた
60人近くいたこのコンパは一次会で一旦解散となり二次会の参加は自由であった
それぞれで消える男女もいればもう一軒飲みに行ったグループもいた
あもんは15人程度になった二次会会場に行った
何故なら、あの男どもに囲まれていた娘が二次会会場に向ったからだ

『名前なんて言うん?』
あもんは彼女に話しかけた
『あっエミです』
エミはいきなり話しかけられ少し驚いた表情で答えた
『モテとったね~彼らは何処に行ったん?』
『よ~知らんけど、飲みに行くって言っとった、ウチはお酒苦手じゃけん、行かんかった』
『あっ、そう、歌わんの?』
『うん、ウチは聞くのが好きじゃけん』
『あもん君って藤井フミヤに似とるね~フミヤ歌ってw』

調子に乗ったあもんはチェッカーズ時代からフミヤの歌を何曲も歌った
エミはもう誰にも囲まれること無くあもんに拍手を送っていた





『二人で抜け出さん?』
あもんはエミに勢いをつけながら言ってみた
『えっ!…でも…』
『まぁええじゃん』

半ば強引にあもんはエミの手を掴んだ
エミは嫌がる素振りを見せず俯きながらあもんに付いていった
店を出ると一次会でエミを囲んでいた男どもがいた

『おい!』
と叫ぶ男どもにあもんはピースサインを送りあもんはエミの手を引っ張った



『どこ行くん?』
エミはあもんに尋ねた
『ん、よ~分からんけど、取りあえず歩こうか』
あもんは答えた
『エミって福山の娘?』
『うん、そうじゃけど』

始めは戸惑っていたエミも徐々に気を許したのか口数が多くなっていった
あもんが強引につないだ手も話すことも無くたまにギュッとエミから握ることもあった


『これからどっか行く?』
あもんはエミに尋ねた
『いや、どこも行かん』
エミは俯きながら答えた
『じゃぁ、明日遊びに行こうよ』
『いや、行けん』
『なんで?』
『ウチ、彼氏がおるけん』
『うそっ!じゃぁなんでコンパに来たん?』
『えっ、誘われたけんよ。彼氏とは遠距離じゃし』
『彼氏がおったら来たらいけんじゃろ!見つからんかったらエエんか?』
『コンパじゃないもん!ただの飲み会じゃもん!』
『なんやそれ!一緒じゃろ~』
『違うもん!』


男女が出逢うために飲み会をする
それをコンパと言うのでは無いのだろうか
女性が飲み会と言う意味があもんは分からなかった
そしてあもんは酔いが回っていたのか力ずくでエミに迫った
エミは構えていたかのように力いっぱい言った


『違うもん!』

エミの大きな叫びにあもんの酔いは覚め
あもんはエミの手を離した
そしてあもんはエミを二次会会場に送った
酔いが覚めたあもんはなんだかしんどくなりそっとその場を去った
帰りの駅に向かう途中エミを囲んでいた男どもに出会った

『あははは!あもんもフラレたか~、飲みに行くか?』
『おう!なんか、たいぎぃけぇ~もう帰るわ』

そう言ってあもんは帰った

『あれからサキとドライブに行ったんじゃ』
次の日、コンパに一緒に行っていたむっちゃんがあもんに報告をした
『えっ、オレも誘われたけど、むっちゃんも誘ったんか?』
『おう、GTS-Rに乗りたかったけん』
『サキってめっちゃ、金持ちの娘やで、家見てびっくりしたわ』
『ドライブ行ってそれからどうしたんや?』
『ん、ウチに泊ったけど、朝起きたらおらんかったわ』
『なんじゃったんか、よう分からん娘じゃったわ』


数日後、ジュンペイがあもんに教えてくれた
『昨日のコンパって結局、カップルになったの幹事同士だけだったみたいで』
『幹事同士で打ち合わせって言うて、よう遊びよったみたいだったけん』
『結局、そういうことか~コンパって言うより飲み会じゃったの~』

あもんの生まれて初めてのコンパはなんかしっくりこない程度で終わった


その日の講義を終えたあもんは宿に帰った
よく見ると郵便受けには電報が入っていた
そこには「シキュウ、レンラクセヨ  ボブニシ」と書かれていた
当時徳島の大学に通っていたボブ西はあもんの応援団仲間である
他の仲間であるEIGは広島の大学に通っており、たっひーはパチプロの世界に足を突っ込んでいた
あもんはアミにフラれたことを誰にも話していなかった
しかし噂は広島まで飛んでいき更に瀬戸内海を超え徳島まで辿り着いたのだ
しかも話が飛躍しており、あもんがフラれたショックで自殺をするんじゃないかとまで噂されていた
その原因としては当時のあもんの部屋には電話回線が無く共同の電話であったことがあった
その上、バイクばかり乗っていたので繋がらないことの方が多かった
あもんはボブ西に電話をした

『おぉぉぉお!あもん!生きとるか?色々あったらしいじゃん』
『おお、アミにフラれたわ…』
『まさか、仲良しで有名だったお前らがの~信じられんわ!』
『まぁ、取りあえず、EIGとたっひー誘ってそっち行くわ!』
『飲むで!泊めてくれ!』

ボブ西はそう言って電話を切った
まさか遠い福山まで来てくれるとは思っていなかったあもんはこの晩
また、泣いた


『何、フラれとんや!』
久しぶりに会ったたっひーはいきなり先制攻撃をしかけた
『やかましいわい!お前らもその内、別れるわい!』
あもんは応戦をした
『もう別れたわい!女はみんな勝手じゃわい!のう、ボブ西』
『ワシは健全なる遠距離恋愛をしよるで、お前らみたいに不埒な関係じゃないけんの』
『誰が不埒やねん!それよりお前が入ったとうお笑いサークルの方が不埒じゃろ』
『何!ワシの脱ぎ芸は芸術なんじゃ~』
『お~い、カレーでええかの~』

いつの間にか台所でエプロンをつけているEIGがみんなに言った
『何ワシのエプロンつけとんじゃ!恐ろしいくらい似合わんで』
あもんは即座に突っ込んだ
『人参は皮を剥いでから入れんかい!』
意外と繊細なたっひーが次に突っ込んだ
『裸にエプロンはいらんで!』
あもんは先制パンチとしてズボンに手をかけていたボブ西に突っ込んだ

あもん達はEIGのあまり美味しくないカレーを食べ、酒を飲んだ
誰もボケることは無かったがみんなが突っ込むという会話が続いていた
あもんはみんなに聞いてみようと思った

『なぁ~人を好きになるってどういうことなんじゃろ~』
その質問にみんなが一瞬黙った
そしてEIGが言った











『そうそう!ワシがお勧めのエロビデオ持って来たんじゃ~!』
『最近は青山ちはるが熱いで!あもん!見ようで!』
『何!お前!桜樹ルイ派じゃなかったのか!?』

あもんは即答した
あもん達は青山ちはるに燃えた
ちはるに燃えた後EIGが再び言った





『海高の校歌でも歌うか!』
『なんでやねん!』

3人の同時ツッコミがEIGを襲った
あもん達は校歌を熱唱しいつしか眠りについていた




次の朝、ボブ西達はそそくさと帰って行った
みんなが帰った後あもんは部屋でひとり、片付けをしていた
あもんはこの時『何故、人は人を好きになるのだろう』という問題に
『好きなモンは好きなんじゃ』という答えを出した




後日あもんはアミを呼びとめた
『ちょっと、ええかね~』
『な・に・』

アミは驚いた表情であもんを見た
『お前のこと忘れようと思ったけど…』
『忘れようと思ったら悲しいだけじゃけん』
『じゃけん、忘れんことにした!』
『両想いから片想いになっただけじゃ!!』

あもんのいきなりの告白にアミは少し動揺した
『そんなん、困るよ~』
『ええんじゃ、好きなモンは好きなんじゃ』
『じゃぁ、好きにすればええじゃん』
『友達待っとるけん、行くね』

アミは逃げるようにその場を去った

それ以来あもんはアミのことで悲しむことが無くなった
悲しみの消化は悲しまないことだということ分かった気がした
別れで悲しんでいるあもんに対し周囲の朋は一緒には泣かなかった
何一つ助言らしいものもくれなかったが
学校でかわいい娘を探し、バイクに乗って、たまに旧友と酒を交わす
そんな何気ない日常をひとつずつ楽しむことによって
あもんは人間不信になることを避けれたんだ


この年はラジオからよくドリカムが流れていた年であった




続く