あもん史 第四十九章 躍進 | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

三つ子魂百までという言葉がある
人間は3歳までに脳のハードディスクが完成するという意味である
それから多くのソフトディスクを加えていき人間性を育成していくのだが
『海田高校応援団』というソフトディスクは
情熱を注ぎ込み解凍させるとたった数ヶ月で躍進できるものである


爆風スランプ
『涙』




第31代発足記念演舞は海田高校の文化祭の行事のひとつであり
最終日の最終行事として新体育館を貸切り行われる
文化祭である為、生徒はもちろん一般の方も観客として参加できるのである
あもんは過去2回、この発足記念演舞を経験しているのだが
自分が引退する場であるこの記念演舞に向けてひとつの目標を立てていた
それは『この記念演舞の席を満員御礼にする』ということだった
多くの人に第30代の最後の演舞を見に来てもらいたい
そう思うのはどの代の応援団員でも思うことだが
あもんは応援団として最後に歌う校歌斉唱を多くの人とするのが夢であった
あもん達の目指した『大応援団』でこの体育館に母校の校歌を響かせたかったのだ


しかし、文化祭の行事は応援団の記念演舞だけではなかった
同日同時間に旧体育館にて軽音部のライブが行われるのである
当時は誰もが一度はギターをもったことのある時代である
部員が好きな曲を演奏し、それを聞きに行く生徒も多かったのである
あもんの当時の彼女も『あもん君の演技の時間には見に行く』なんて悲しいことを言っていた
各生徒に見に来てもらうよう宣伝するのは当たり前のことだが
あもんは標準を一般の方へ向けることにした


この記念演舞では毎年パンフレットが無料配布される
記念演舞の目次や応援団の写真、各代の幹部が書いた作文などが掲載されている
無料配布である為、かかる費用は自分たちで負担しなければいけない
自己負担といってもおこずかいでは絶対に作成できないため
応援団はこの時期にスポンサーを求めて近所の店を歩き回るのである
これはもう毎年のことである為、昨年の広告欄を見つつ各店を回る
『今年もパンフ作るのでよろしくお願いします』と応援団は頭を下げるのである
多くの店の人は快く了解してくれ一口5000円の広告代を払ってくれる
しかしあもんは作りたい物があった
そのためには昨年より多くの広告代を集めなければいけなかった
あもんは新規開拓に乗り込んだ
高校生は全く関係の無い飲み屋や自転車で10分以上はかかる遠隔地などを回った
しかし海田高校応援団という名前はどちらの印象かは分からないがほとんどの人が知っていた
ありがたいことに多くの広告代を集めることができた
そしてあもんは応援団としてポスターを作ったのである
そのポスターを広告主となってくれたところへ配って回る
海田高校の周りの店にはあもん達の記念演舞のポスターが飾られていた



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このポスターは学校内にはもちろん貼られ宣伝効果は十分にあった
しかし、第31代幹部である“よっしー”と“イグリ”があもんに言った


『あもんさん。まだまだ宣伝が足りないっすよ!』
『もっと、インパクトのある宣伝して多くの人を呼ばんといけんっすよ』
『僕らの代の発足記念演舞じゃけん多くの人に見てもらいたんですよ』


“おぉ~”とあもんは思った
彼らはまだ入団して2ヶ月弱の団員である
しかし彼らはもう躍進しており自分たちが海田高校応援団を背負うということを
不安ではなく希望として考えるようになったのである
あもん達の情熱は彼らに伝わっているようであった
あもんは言った


『じゃぁ~どうすりゃ~ええかの~サンドイッチマンでもするか~?』
『ん~それは今まで多くの人がやってますけんね~もっとインパクトのあるのがいいっすね』
『じゃぁ、お前らで考えてみ~この件は任せるけん』
『押忍』


よっしーとイグリは答えた


文化祭前日、よっしーとイグリはあもんに言った

『あもんさん!見てくださいよ~これどうですか~?』

そこには大きな箱型のダンボールが逆さになって置いてあった
前後には記念演舞のポスターが貼られてあった
上部と左右には丸い切込みがしてあった
あもんがそれを眺めているといきなりそのダンボールが動いた
丸い穴から頭と両手がガバッツと出てきたのである
中に入っていたのは1年生のカズである


『あははははは』
あもんは大笑いをした

『これ、ぶちウケるの~カズ、お前に大仕事をあげるけんの~』
『明日の当日は演舞が始まるまでこの“ロボカズ”で宣伝活動じゃ~』
『押忍!』


とカズは嬉しそうに答えた
あもんは第31代応援団も躍進したなと思った


そして、ついに1992年海田高校文化祭が始まった




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文化祭当日、カズが主役になるときがやってきた
場所は多くの来場者がある軽音部のライブステージの近くである
一旦、カズはダンボールの中に入り時を数える
スタンバイを見られている可能性があるからだ
数分間ダンボールは群衆の中にポツンと佇んでいた
するとロボカズはいきなり立ち上り、頭と両手を出した


『きゃぁぁぁああ』
女子の驚く声が聞こえた

そして、カズは姿勢を正し一礼をした

『押忍!』
『本日、午後一時から新体育館にて海田高校応援団第31代発足記念演舞を開催します!みなさんお誘い合わせの上お越しください!よろしくお願いいたします!』
『押忍!』


『あはははは!カズよくやったぞ~まだまだやるで~』

勢いに乗ったカズは校内のいたるところでロボカズを披露したのである


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カズは幼い頃から柔道一直線で真面目な男であった
しかし、あもんたちのバカぶりに憧れ応援団に入団をした
よって今、カズは満足感に満ち溢れ少し勝ち誇った顔をしていた
一年生であるカズも入団して数ヶ月であるが躍進をしていた
あもん達の意志は十分に伝わっていると思った


後日談であるが
あもんが応援団を引退し部室に遊びに行ったときにカズがあもんに言った


『あもんさん。最近のマクドナルドって“スマイルを0円で売っている”って知っています?』
『メニューにスマイル0円って書いているから僕、注文したんですよ』


『あなたのスマイルひとつください!って』

『そしたらそのお姉さん!ニコってしてくれました~』
『嬉しかったんで僕、もうひとつ注文したんですよ』


『お持ち帰りでお願いします!って』

『そしたら、そのお姉さん、お持ち帰りはできませんって丁寧に答えてくれました~』
『あははははは』


カズは第32代応援団団長となる男である
あもんはこのとき
あもん達の情熱が十分伝わっていると安心したのであった


猿岩石
『白い雲のように』



(猿岩石はあもんと同年代で海田高校近くの出身です)