注:この作品はアニメを元にした二次創作です。

クリスフォード家の朝食は、大金持ちにしてはあまり豪華なものではなかったが、焼きたてのパンやスープが並ぶ様は、ひもじいメイド時代を経験したセーラにとっては十分豪華に感じた。

セーラ「叔父さま、お待たせしました」

セーラはレディらしく両手で軽くスカートの端を持ち上げ会釈した。

クリスフォード「おお、セーラ服か! とても似合っているよ。 セーラだけにセーラ服が君の戦闘服という訳だ!!」

セーラ「まぁ、叔父さまたら! まるでお父様みたいなジョークを言われるのですね!」

クリスフォード「それはどういう意味かね?」

セーラ「ご存じのようにお父様は軍人だったでしょう。 インドにいた時も、敬礼ごっこしたりして遊んでいたんです」

クリスフォード「はは、セーラは知らないと思うけど、私も若い頃は士官学校に通っておってな、そこでラルフと出会ったのだよ!」

セーラ「まぁ、そうだったのですね」

その後、クリスフォードとセーラはこのようなジョークを交えながらの楽しい会話をしながら食事を取っていた。 いつしかセーラはクリスフォードが、信頼のおける誠実な人であることを理解した。

クリスフォード「ところでセーラ・・・今日の予定だが、昨日はラルフの残された財産と私の後継者としての話に終始してしまったが、この後に顧問弁護士のカーマイケル君が来て、これからの君の処遇について詳しく話し合う予定なんだ。 セーラ、君から私に何かして欲しいことはあるかね?」

セーラ「一晩考えていたのですが、私、叔父さまに二つお願いがあるんです。 一つ目のお願いは、また女子学院で勉強を続けたいんです」

クリスフォード「そうか、勉強熱心でよろしい! でも私は君専用の優秀な家庭教師を付けようと思っていたところだったんだがね。 ところで、このロンドンで君が行きたい名門女子学院のあてはあるのかね? 無ければカーマイケル君に探させるが・・・」

セーラ「いえ、叔父さま、新たな名門女子学院を探す必要はありません。 だって私はお隣のミンチン女子学院に復学しようと思っているのですもの」

クリスフォード「何だって!! ミンチン女子学院はラルフが亡くなってからというもの、いくら一文無しとはいえ元生徒の君に碌に食事も与えずメイドとしてこき使った所じゃないか! ラムダスからの話だと、君はそのせいで病気になって死にかけたこともある! 恨むことこそあれ、どうしてお隣なんだい? ゴッホゴッホ・・・」

ラムダス「旦那様、大丈夫でございますか?」

クリスフォード「だ、大丈夫だ! ちょっと興奮しただけだ!」

セーラ「叔父さま、興奮させてごめんなさい。 私の我が儘なお願いだと思うのですが、私には貧しい身分になってからもずっと慕ってくれる年少の生徒達がいました。 その子達には以前フランス語を教えていたんです。 だから、その子達のフランス語が上達するまで、またフランス語を教えてあげたいんです。 それにあそこには特別な愛着もありますし・・・」

クリスフォード「なる程・・・そういう訳か。 そういえば君の将来の夢はフランス語の教師だったね。 なんて心が強い子だ。 てっきり君はおお隣には二度と足を踏み入れないと私は思っていたよ。 丁度良い、カーマイケル君と一緒に私が今日お隣へ行って話を付けてこよう」

セーラ「ありがとうございます。 叔父さま、もう一つのお願いなんですが・・・」

クリスフォード「何だね? 言ってごらん?」

セーラ「それは、ミンチン女子学院にお金を寄付したいんです」

クリスフォード「まあ、復学となればある程度の寄付金を払わざるを得ないと思うが・・・」

セーラ「いえ叔父さま、そういう類の寄付金じゃないんです!」

クリスフォード「セーラ、それはどういう意味だね?」

セーラ「実は私が残した借金のせいでもあるんですが、どうも学院の経営が芳しくないみたいなんです。 そのことはメイド頭のモーリスさんから事ある毎に院長先生の言いつけという事で節約をしいられていましたから間違いないと思います。 それで私は学院の経営が安定する額を寄付したいんです」

クリスフォード「分かった・・・それでは、 セーラのたっての願いだ、1万ポンド※をお隣へ寄付しようじゃないか!」
※現在の価値で換算すると二億円以上。

ラムダス「1万ポンド!! 旦那様、それは多過ぎではございませんか!!」

クリスフォード「ラムダス、良いんだ!! 君は黙っていてくれ!」

ラムダス「かしこまりました、旦那様」

セーラ「叔父さま・・・ごめんなさい。 実は私は10万ポンド※を学院へ寄付したいと思ってるんです」
※現在の価値で換算すると20億円以上。

クリスフォード「10万ポンドだって!? セーラ、気は確かかね、1万ポンドだって学院の寄付金としては多過ぎるのに、その10倍とは・・・セーラ、10万ポンドといえば君の資産の半分にもなる大変な額なんだよ。 そこまであの学院に寄附することはないと思うが・・・まさか君は・・・ミンチン女子学院を買取り、オーナーにでもなるつもりなのかい?」

セーラ「いえ違うんです、叔父さま・・・私はあの学院を将来まで存続させたいだけなんです。 このままではあの学院は廃校になるかも知れません。 でもそれは何も経営だけの問題だけじゃないと思うんです。 少し前に市場で噂話を聞いたのですが、ミンチン女学院は元代表生徒が破産したのを良いことに、メイドとして碌な食事も与えずにこき使っているとんでもない学院だと・・・とかく噂話というのは広まり易いですから、そのうち市長夫人まで届いてしまうかも知れません・・・」

クリスフォード「そうか、もしその噂話が市長夫人まで届いてしまったらミンチン女子学院はお終いだ。 でも、その噂話というのは真実で自業自得じゃないのかね?」

セーラ「そうかも知れません。 ただ私の将来の夢はフランス語の先生ですが、ミンチン女子学院で先生をやりたいんです。 尊敬するディファルジュ先生のように・・・」

クリスフォード「そうか、ディファルジュ先生は君の恩人の一人だったね。 分かった、君の言う通りにしようじゃないか!!」

ラムダス「旦那様! 失礼ですが、そんな大金の寄付を簡単に決めてもよろしいのでしょうか? せめてカーマイケル弁護士に相談された方がよろしいかと・・・」

クリスフォード「ラムダス、忠告してくれるのはありがたいが、私が決めたことだ。 問題は無い! これは私の判断ミスで散々苦労を掛けさせてしまったセーラへの贖罪なんだよ!」

ラムダス「出過ぎた真似を申し訳ございませんでした、旦那様」

セーラ「ありがとうございます、叔父さま!! それにラムダスさん、ご心配させてごめんなさい。 私の我が儘を許して下さい」

クリスフォード「とにかく恐れいったよ、セーラ! 君のその大胆な考えはどこから来ているのだい?」 

セーラ「私はインドにいた時からお父様のお陰で貴族のような贅沢な暮らしを続けて来ましたが、お父様が亡くなった途端一文無しになってしまったでしょう。 それで分かったんです。 身の丈の合わない贅沢は身を滅ぼすと・・・」

クリスフォード「セーラ、君は自らそれを悟ったのかね? 私もその通りだと思う。 でも、君は生まれながらにしてプリンセスの気品があるから、意外と身の丈はあっているかも知れないよ。 ま、だからと言って、また贅沢三昧の生活は控えた方が良いと思うがね! あっはは!!」

クリスフォードは豪快に笑った後、冗談ぽくセーラにウインクをした。

セーラ「はい、叔父さま、その点でしたら心配ご無用です! もし、また一文無しになってしまっても、どこかのメイドとしてバリバリ働きますもの!!」

セーラも同じようにクリスフォードにウインクを返した。

クリスフォード「ははは、それは頼もしいな! ところでもうこれで願いは終わりかな?」

セーラ「実はもう一つあるんです。 でもこれは私の一方的な思いかも知れないのですが・・・」

クリスフォード「ほう、それは何だね?」

セーラ「実はベッキーのことなんです」

クリスフォード「ベッキー? ああ、お隣のメイドで君と苦楽を共にした少女だね。 彼女には改めてお礼をしようと思っていたところだったんだ。 それで?」

セーラ「叔父さま、私は学院でメイドをしていた間はベッキーとは隣の部屋同士でずっと過ごしてきたんです。 それがどんなに心強かったことか! だからこの家でも、ベッキーと一緒に暮らしたいんです。 それに私、ベッキーを激戦地で一緒に戦った戦友のように思えていて・・・私だけが幸せになるなんて耐えられないんです!」

クリスフォード「はは、激戦地を一緒に戦った戦友か! 確かにそうだ! それは大切にしなきゃいかんな。 そうだ、セーラの次女としてウチに迎え入れたらどうだろう?」

セーラ「それは私も考えましたが、ベッキーに対して失礼かも知れません。 実は今でも後悔をしているのですが、私は以前のあるクラスメートから自分の専属メイドとして依頼されていて最初は許諾したのですが、私、どうしても屈辱に耐えられなくて、その子のお父様に余計な言葉を言ってしまったんです。それで、その依頼はご破算になりました。 そんな私がベッキーに対して同じようなことをするなんて許されることでしょうか・・・」

クリスフォード「・・・セーラ、君さえ良かったらその余計な言葉とやらを私に教えてくれないかい?」

セーラ「はい。 確か・・・ラビニアさんが以前のクラスメートを専属のメイドとして考えておられるのなら・・・だったと思います。 こんな言葉を言ってしまうなら、最初から断れば良かったんです。 多分私の心が弱かったせいだと思います・・・」

クリスフォード「セーラ、そんなことは無い! 君の心は強い! 私の知らないところで、そんな理不尽な事があったのか! なんて酷い話なんだ!! そのラビニアというクラスメートの父兄に私が直接抗議をしなければ!!」

セーラ「叔父さま!! お願いですから、それだけは止めて下さい!! 彼女はその時、父親から十分な罰を与えられています! それに彼女はこの学院に入る前にアメリカで酷いイジメにあっていたみたいなんです。 だからその反動で私に・・・」

クリスフォード「なんだって!! それは本人から直接聞いたのかね?」

セーラ「いえ、噂話です。 聞くつもりは無かったのですが、私が大部屋をお掃除をしている最中にクラスメート同士の噂話が聞こえてしまって・・・多分ラビニアはイジメに遭う前は、心優しい人だったと私は思うんです! だから私は彼女と改めて友達になりたいんです!」

クリスフォード「そうか・・・分かった、セーラに免じてその話は聞かなかったことにしよう。 ふ~・・・ところでベッキー君の話に戻るが、彼女の事をもう少し教えてくれないかい?」

セーラ「はい、叔父さま・・・ベッキーは私がミンチン女子学院に転入してきて直ぐに雇われました。 ある時、私は彼女が毎日過酷な労働を長時間強いられているのを知ったんです。 何とか彼女の力になってあげられないかと思って、院長先生には内緒で毎日私の部屋に招いて、二人でお菓子を食べたりおしゃべりをして友情を育みました。 その後、私が一文無しになってメイドをやらされるようになっても、彼女は私への態度を一切変えることなく、私を慕い続けてくれたんです。 それだけでなく、仕事のやり方を何も知らなかった私に手取り足取り優しく教えてくれて・・・。 それに私が重い病気に罹ってしまった時も、自分がうつってしまうのも厭わず、必死に看病してくれました。 かけがえのない私の親友であり、命の恩人でもあるんです。 だから私は彼女と家族のように一緒に暮らしたいんです・・・」

クリスフォード「分かったよ、セーラ。 君が彼女をいかに大切にしているかが・・・」

セーラ「叔父さま・・・」

クリスフォード「そうだな・・・私からミンチン院長に頼んで彼女をウチのメイドとして契約することにするが、あくまで彼女の意思を尊重するとしよう。 むろん彼女には隣のような過酷な仕事はさせないつもりだ。 ただし、彼女にはメイドとしての仕事の他に読み書きや数学の勉強もしてもらう。 セーラ、先生役を君に頼めないかな?」

セーラ「叔父さま、喜んでその役を引き受けます!」

セーラは徐々に張り詰めた心が解放されて行くような気がしたのだった。

終わり。 
第46話へ続く。

 (エピローグ)
このお話しは一視聴者として、最終話でなぜセーラは学院に戻り、なおかつ莫大な寄付金をしたのか? それとラビニアに対し、今までのことをなぜ全て水に流し和解したのか?という疑問の答えを考察しました。

※4/17:加筆修正しました。
※4/17:更に加筆修正しました。
※4/23:ラスト部分を変更しました。