注:この作品はアニメを元にした二次創作です。

45.5話 「セーラの想い(中編)」

明くる日、セーラはクリスフォード宅のベッドで、外がまだほの暗い頃に目を覚ました。

セーラ「いけない、つい寝過ごしてしまったわ!!」

セーラは直ぐにベッドから飛び起きて、薄暗い部屋の中で時計を探した。

セーラ「まあ、もう六時を回ってしまってる! 早く着替えて下に行って火を起こさなければいけないわ! そうだ、ベッキーも起こさなければ!!」

セーラは寝間着を素早く脱いで、上着を探そうとした瞬間、ハッと気がついた。

セーラ「私ったら何を寝ぼけているのかしら・・・恥ずかしい。 私は昨日クリスフォードさんに引き取られて、もう学院のメイドではないのに・・・でもこうしちゃいられない!」

セーラは落ち着く為、ベッドに座って一度ため息をつくと、スクっと立ち上がりクローゼットに行って出来るだけ作業のし易い服を探した。

セーラ「困ったわ、ここにある服はみんな上等な服ばかりで作業には向いていないものしかないわ・・・あっ、そうだわ!」

セーラは昨日のうちに届けてもらった学院生活での自分の荷物がボストンバックに入っていることを思い出した。

セーラ「これこれ! エプロンもあるわ!」

セーラが着替えたのは、昨日まで着ていたセーラの汗が染みこんだみすぼらしい緑色の服だった。

セーラ「さて、叔父さまが起きる前にひと仕事しなきゃね!」

セーラはそそくさと部屋から出ると、階段を下りて厨房へ向かった。 

厨房では既にインド人の料理人が料理の下準備に忙しく動き回っていた。 セーラは見つからないように隠れて遠くからその様子を眺めていた。

セーラ「どうやらここでは私の出る幕は無いみたい・・・さあ、次ね」

セーラは昨晩の内に使用人のラムダスに家の中の案内をしてもらっていたので、掃除道具のありかをちゃっかりと把握していた。 セーラはそこからバケツと雑巾を取り出し、水汲みをするために厨房へと向かった。
しばらくすると、セーラは水をたたえたバケツを持ってきた。 どうやら上手いこと誰にも見つからず井戸から水汲みが出来たようだ。 そしてセーラは玄関の鍵を内側から開け、床の拭き掃除を始めた。 

セーラ「ああ、この凍えるような水の冷たさ・・・朝はこれをやらないとなんか起きた感じがしないのよね!」

セーラはもう働く必要は無かったが、昨日までの長い間、過酷な仕事とイジメが酷かったためか、精神を少し病んでしまい風変わりな依存症になっていたようだった。 歳の割に賢く聡明なセーラとて、元に戻るまである程度のリハビリ期間が必要だったのだ。 
少し経つと隣の学院の地下室から玄関に繋がる階段をベッキーがあくびをしながら昇ってきた。

ベッキー「ふぁ~あ!! 今朝は寝坊しちゃって、またモーリスさんとジェームスさんからさんざん怒鳴られちゃった!!」

ベッキーはまさか隣にセーラが玄関掃除をしているとは露知らず、まったく気が付いていない様子だった。

セーラ「おはよう、ベッキー!!」

ベッキー「わっ、びっくりしたー!! お、お嬢様じゃないですか!? え~、そんな格好で何をされているんですか???」

セーラ「見ての通りの玄関掃除よ。 もちろん、私はもう働かなくて良いことは頭では分かってるのよ。でもダメなのよ、お掃除がやりたくてやりたくて・・・たまらなかったの」

ベッキー「お嬢様・・・もしやお病気では?」

とその時、玄関がガチャと開き、ラムダスが血相を変えて出てきた。

ラムダス「お嬢様、こんな所にいたのですか!!」

セーラ「ラムダスさん、どうされたのですか?」

ラムダス「どうもこうもありません!! 使用人からお嬢様がバケツを持って玄関の方へ向かったという報告を受けたのです。 それに何をされているのです? お嬢様はもう一生働かなくて良いんですよ!!」

セーラ「ラムダスさん、心配掛けてごめんなさい、私、何かの病気かもしれない・・・もうお掃除は一生しなくていいんだと思うと、逆にお掃除をやりたくて仕方がなくなってしまったの・・・」

ベッキー「ラムダスさん、お嬢様はひどく疲れているんでございます! 休ませて上げて下さい!」 

ラムダス「ベッキーさん、お心遣いありがとうございます。 そうかも知れませんね・・・それはそうとお嬢様、旦那様が食堂でお待ちですよ。 私が送って行きます」

セーラ「はい、分かりました、ラムダスさん、ご心配掛けてごめんなさい」

セーラはラムダスと一緒にクリスフォードがいる食堂へ向かった。
セーラが食堂に入るや否やクリスフォードはセーラに声を掛けた。

クリスフォード「おお、セーラ!! ラムダスから聞いたよ! 君が突拍子もない行動に出たと・・・ん? それとそのみすぼらしい格好はなんだい?」

セーラ「これは・・・・」

ラムダス「このお召し物は、お嬢様の学院生活時代に着ていらしゃったものと同じものです」

クリスフォード「ん~、いくらメイドとはいえ、そんなボロをセーラに着させていたのか、あの学院長は・・・でもどうして今更それを?」

セーラ「私はお父様が亡くなってからというもの、この服しか与えられなかったのです。 でもそれを恨んでいる訳ではありません。 私にとってこの服は、見た目はボロでも苦しかった時代の大切な思い出の服なんです。 だから叔父さまにも見せたくて・・・」

セーラは掃除依存症のことはあえて黙っていた。

クリスフォード「そうなのか・・・分かったよ、セーラ。 その服は直して大切に保管しようじゃないか!」

セーラ「ありがとうございます、叔父さま!」

クリスフォード「ところでセーラ、その大切な服を着たままで朝食を食べるのかい?」

セーラ「はい、いいえ! 直ぐに着替えて参ります!」

その後セーラは、46話で着ていたセーラ服に着替えて戻ってきたのだった。

続く。