小公女セーラの44話と45話の間に0.5話あったら?というお話を考えてみました。

小公女セーラ 第44.5話 「運命のいたずら」


ミンチン女子学院の隣に住んでいるクリスフォード宅へ屋根裏に迷い込んだサルをお届けに来たセーラは、初めてクリスフォード氏に対面し今までの魔法のお礼の言葉を述べましたがリスフォード氏に自分の名前を伝えた途端、氏のただならぬ驚きようにセーラはとまどいを隠せないのでいたのでした。


「叔父様、どうなさったのですか? それにどうして私の父の名をご存知なのですか?」


「お、お嬢さん、いや、セーラ! 君はどうして、どうして、こんなところに・・・」


「??  (こんなところって、どういうことかしら?)

クリスフォード氏は予期せぬ展開に次の言葉が出てきません。セーラも彼の突然の狼狽ぶりに戸惑いを隠せませんでした。
また、傍で一部始終を見ていた弁護士のカーマイケル氏と彼の奥様も、あまりの衝撃な展開に呆然と立ち尽くしているのでした。
さて、ほんの少し沈黙の時間が流れた後、最初に口を開いたのはカーマイケル弁護士の子息であるドナルドでした。


「ねえ、クリスフォードさん?  この娘がパパが探していたラルフ・クルーさんのお子さんなんですか?  でもおかしいな~・・・お父さんからはフランスにその子はいるはずだって、聞いていたんですけど・・・なんだか僕よく分からなくて・・・」


そんな無邪気な子供らしい質問に我に返ったカーマイケル弁護士は、少し強張った顔で口を開きました。


「ドナルド!少し黙ってなさい!クリスフォードさん、失礼しました。」


「いや、いいんだ、カーマイケル君。そうだね、君たちが話を飲み込めないのは当然だ。私から説明しよう。」


「しかし・・・」


クリスフォード氏もやっと興奮状態から落ち着きを取り戻したようでした。


「セーラ君、どうか落ちついて聞いてくれたまえ」


「はい、叔父様」


「いいかね、実はセーラ君の父ラルフは、私とは学生時代から続く一番の親友だったんだ。その娘が君で、私はラルフの死後、君を懸命に探し続けていたんだ。」


「まあ、叔父様がお父様のご親友だったなんて・・・なんてことなの!!  そんなことも知らずに私はずっと隣で過ごしてきたなんて・・・」


今度はセーラが驚く番でした。


「そうだ、セーラ君。私は君が隣に住んでいるにも関わらず、あろうことか君のお母さんの故郷であるフランスのパリの寄宿学校に君が居るものだと勘違いをしてずっと探していたんだ。絶対に見つかるはずもないものをね。
本当に私は愚か者だよ・・・私がもう少し頭が働けば、もっと早く君を見つけることが出来たんだ!!  ああ、私のせいで辛い思いを長い間続けさせてしまって、本当に本当にすまなかった・・・」


「そんな叔父様・・・」


クリスフォード氏は、セーラの手を両手で握り、頭を垂れました。気の優しいセーラはそんな彼を可哀想に思い、少し困ったような顔をするのでした。
すると隣にいたドナルドはセーラの顔を覗き込み、無邪気にこう言うのでした。


「え~と・・・ちょっと聞いていいかな? 君はなんで隣の学校で生徒じゃなくて、メイドなんかしていたの?  それにいつもボロボロの服を着ていたのはなぜなの?」


「ドナルド!! そんな失礼なことを訊いてはいけません!! ごめんなさい。 この子何も知らなくて、思ったことをすぐに口にしてしまうんです。」


世間知らずのドナルドの言葉に即座に反応したのは、ドナルドの姉のジャネットでした。ジャネットは過去にセーラの身に大変な事が起きたことを察していたようです。


「えっ、なんか僕、またまずいこと言ったの? ごめんさい。」


「いえ、いいんです。誰だってあんなみすぼらしい恰好をしている子を見たら物乞いだと思うわ。でもあの服は見た目はボロだけど、私にとって一番大切な服だったの。 だからいつも着ていたのね。 それとわたしがなぜメイドをしていたかというとね、わたしはお父様が亡くなった後、みなしごになってしまったの。 そんな私を引き取って下さる身元引き受け人の方もいなくて・・・。  だから私はお金の掛かる生徒ではなくて、メイドをして自分の食べる分を働いて稼ぐ必要があったの・・・わかった?」


服が一着しか無かったから仕方がなかった、と答えることはセーラには出来ませんでした。でもセーラは得意の想像力によって以前着ていたような豪華な絹の服を着ていたつもりになっていましたから、それ程恥とは思っていませんでした。しかし、世間からは自分が物乞いのように見られていたことを悟ったセーラは少し寂しい気持ちになりましたが、恩師であるデイファルジュ先生に教えられた通り、勇気を出して優しく答えるのでした。


「へ~そうなんだ!!  君は変わった趣味があるんだねえ~!!  もっと良い服を着てれば良かったのに!」


「そうね、フフフ…」


セーラはドナルドのトンチンカンな反応にマリー・アントワネットの有名な言葉、「パンが無かったら、お菓子を食べればいいのに」を思い出し、少し可笑しくなりました。でも姉のジャネットはそんなドナルドの暴言を許しません。


「ドナルドったら、また失礼なことを!!  ごめんなさい、セーラさん。この子ったらいつも変なこと言うんです。」


「いえ、私もお坊ちゃんと同じかもしれません。 私も周りからよく変わった人って、言われていましたから」


「でしょ!!   やっぱり僕は正しかったんだ!!」


「も~う!!  ドナルドったら~・・・」


「フフフ・・・」


「ハハハ・・・」


重い雰囲気からドナルドの発言によって一気に場は和みましたが、姉のジャネットだけはドナルドのトンチンカンな発言に少しうんざりしているようでした。


「ふ~ん・・・ところでねえ、お母様。身元引受人ってどういう意味?」


※注:ここで一同こけたかどうかは不明である(笑)


「そうねえ・・・セーラさんのように身よりの無い子供を引き取る人のことよ。 普通、叔父さん叔母さんや遠い親戚の場合もあるわね」


「ふーん、そうだったんだ・・・君、すごく大変だったんだね・・・」


ドナルドは分かったような顔をしていましたが、セーラの身に降りかかった想像を絶するような過酷な状況はお坊ちゃま育ちの子供には到底想像出来るものではありません。 そんな中、クリスフォード氏は一段とやさしい表情を見せ、セーラに向かってこう話かけました。


「セーラ君、少し疲れただろう。君の身の上話は後日改めて聞くことにしよう。カーマイケル君、君もそのとき同席して欲しい。 
ところで話が変わるが、今、フと思い出したことなんだが、遠く離れた日本という国にはこういう言葉があるんだ。
「ボロは着てても心はニシキ」という言葉だ。セーラ君、どういう意味か分かるかい?」


「ボロは着てても心はニシキ・・・叔父様、ニシキとはどういう意味ですの?  私、日本という国は存じているのですけど・・・」


セーラは日本という極東の国のことは、マルコ・ポーロの東方見聞録を通じて黄金の国ジパングと呼ばれた神秘の国として知っていました。 だから、余計にその言葉の意味を知りたかったのかも知れません。しかし、この何十年か後にセーラ晩年の永住の地となる運命とは知らずに・・・。


「ほう、流石だな。 日本を知っているとはな!    ニシキとはね、金糸や色糸を使った豪華な絹織物のことなんだ。つまり着ているものは粗末だが、心の中はいつも気高い人のことなんだよ。ここにも心の中がいつも気高い人がいるみたいだが、誰か心当たりはないかい?」

クリスフォード氏は、茶目っ気な顔をしてウインクをしました。そこにいる人達は思わず隣の人に振り向きましたが、最初に反応したのはドナルドでした。


「わぁ、君にぴったりの言葉だよ!!  だって君はいつもボロボロの服を着ていたけど、心の中はいつもプリンセスみたいに気高かったもん!!」


ドナルドはセーラの顔を見ながら得意げな顔で話しました。


「えっ、そんなこと・・・」


セーラは頬を赤くしてうつむきました。そこにいた一同は一瞬沈黙しましたが、次の瞬間、温かい笑いに包まれたのでした。


「はっはは・・・そうだな、ドナルド正解だ!!  そうだ、今朝セーラ君から私にくれた手紙も、まるでイギリスのプリンセスからもらった手紙のようだったよ!」


「まあ・・!!」


クリスフォード氏のこの言葉に、カーマイケル弁護士の妻が大きな声を上げ、一同更に笑いに包まれました。


「こんなに笑ったのはいつの日以来かな・・・ありがとうセーラ君!  私のいたらなさのせいで、親友どころか君まで不幸のどん底へ突き落としてしまったのに、くじけずいつも気高さを失わずにいてくれて・・・」


「叔父様・・・私こそ大変な時に叔父様に助けてもらって感謝しているんです。」

「セーラ君・・・」


クリスフォード氏はセーラの手をギュッと握って、セーラの顔をじっと見つめていました。

ただ賢いセーラは段々と状況を掴んできて運命の歯車が大きく好転したのが分かってきましたが、一つだけ腑に落ちないことがありました。それはかつてミンチン院長からセーラのメイド転落直後に聞いていた話です。かつて父が破産したあげく熱病に侵されて死んだ原因が、親友に騙されてダイヤの産出の見込みが無い屑鉱山を掴まされたことでしたが、セーラには目の前にいる親切な魔法使いであるクリスフォード氏が、親友だった父を騙したとは到底思えなかったからでした。

セーラは病気と飢えと寒さで死にそうだった自分を救ってくれた命の恩人だと、クリスフォード氏のことを心から感謝していました。事実、
もしあの時、食事の差し入れが無かったとしたら、セーラは病気回復後の過酷な労働と貧弱な食事のせいで、そのうち衰弱して死んでしまっていたことでしょう。
セーラは意を決してクリスフォード氏に話かけました。


「叔父様、わたし・・・大変失礼に当たるかも知れないのですけれども、叔父様にどうしてもお聞きしたいことがあるんです。」


「なんだねセーラ君、言ってごらん。」


「かつて父がインドの山奥で思い病気に罹って苦しんでいたとき、叔父様はそのとき何をされていたのでしょうか?」


「むう・・・それは・・・」


クリスフォード氏もセーラのこの質問にはさすがに即答出来ませんでした。 自分が病に苦しむ親友を見殺しにしてしまったのは、どんな理由があるにせよ事実だったからです。


「セーラさん、それは私が説明しましょう。」


困ったクリスフォード氏を見かねてカーマイケル弁護士が口を開きました。


「いや、カーマイケル君、それは私が説明しよう。 私がラルフやセーラ君にしてきたことは、決して許してもらえないことは分かっている。しかし、親友ラルフの娘には事実を伝える義務が私にはあるのだよ・・・」


クリスフォード氏はカーマイケル弁護士を制止するように腕を横に出しました。


「そんな・・・私が叔父様を許さないなんて・・・」


セーラは悲しい目でクリスフォード氏を見つめました。


「セーラ君、周りの人間から君の父の死の原因をどう聞いたかは、大体察しがついている。それに反論するつもりは無い。なぜなら君も知っているように、君の父の親友、つまり私がラルフにインドのダイヤモンド鉱山の共同経営を持ち掛けて全財産をつぎ込ませてしまい、経営に失敗して君の父を破産させ、結果的に熱病で死なせてしまったのは紛れもない事実だからだ。しかし、言い訳するようだが、実は私も別の場所でラルフと同じように熱病に侵されていたのだ。 その後なんとか一命だけは取り留めたのだが、意識が朦朧とした状態でな。 自分のことで精一杯でラルフのことまで頭が回らなかった。いや、こんなのは言い訳にもならんだろう。あのとき私がもっとしっかりしていて、ラルフをあんな不衛生な病院ではなく、もう少しましな病院に移せることが出来たのならば、ラルフを救えたかも知れない・・・」


「そうだったんですか。 叔父様も大変なご苦労をされていたのですね・・・」


「しかし、せめてもの償いとして鉱山の利益で君の父の破産取り消しと名誉回復が出来たのは幸いだった・・・」


「えっ!?」


セーラは重大な何かに気が付いたのか驚いた顔をしました。


「なんだね?  セーラ君」


「叔父様もダイヤモンド鉱山の経営共同されていたことは先ほど伺いました。でも私は院長先生から、父の鉱山からはダイヤモンドは何一つ出てこなかったから破産したと聞いておりました。でも鉱山の利益で破産取り消しがされたということは、その鉱山からダイヤモンドが沢山出たということなのでしょうか?」


「そ、それはそうなんだが、ううっ・・・・・・」


クリスフォード氏は急に胸が苦しくなり二の句が告げませんでした。彼がそうなってしまったのは、セーラの頭の回転の速さに驚いたこともありましたが、親友の財産を自分が結果的に独り占めしてしまった贖罪の気持ちが急に湧き出て心が圧し潰されそうになったからです。


「叔父様、大丈夫ですか!!」


「ああ、よくあることだ・・・」


ガタッ!

クリスフォード氏が勢い良く車椅子に持たれ掛かった為、車椅子がバランスを崩しかけましたが、ラムダスは無言で素早く主人が座る車椅子を支え直しました。


「では、それは私が説明しましょう!!クリスフォードさん、よろしいでしょうか?」


「ああ・・・頼む」


カーマイケル弁護士が口を開き、クリスフォード氏は力無い返事をしました。


「セーラ君、君は随分と物わかりが良いようですね。 この私もはっきり言って舌を巻きましたよ。 ではそれを踏まえて説明いたしましょう。君の父ラルフ氏が半分所有していたダイヤモンド鉱山ですが、実はラルフ氏が亡くなった直後に極めて優秀なダイヤモンド鉱脈が見つかり、世界有数のダイヤモンド鉱山として名を馳せることになったのです。 そして共同経営者だったクリスフォード氏はその財力にてラルフ氏の負債返済を行い、結果、裁判所にて破産宣告の取り消しに成功し、君の父の名誉を回復したのです。」


「では、父が親友に騙されて屑ダイヤモンド鉱山を掴まされたという話は、デマだったということになるのでしょうか?」


「そうなりますね。もし本当に騙したのであれば、ラルフ氏が亡くなった後にわざわざ負債を返済して名誉回復などしませんからね。」


「あ~、良かった!  私、お父様が親友だった方から騙されたという話を聞いたときは、胸が張り裂けそうだったものですから・・・」


「それは、なぜかな?」


「だって私、お父様の親友だった方をもし憎んでしまったら、天国にいるお父様が凄く悲しむような気がしたのですもの・・・」


「セーラ君、こ、こんな私を許してくれるのか!!」


セーラは黙って頷きました。
そしてその姿を見たクリスフォード氏の顔からは、大粒の涙が落ちました。 カーマイケル弁護士の奥様もハンカチで涙を拭っていました。
とそのとき、クリスフォード氏が何か思い出したのか、声を上げました。 

「そ、そうだ、セーラ君!  君に素晴らしいプレゼントあることを忘れていた。ダイヤモンド・プリンセスに相応しいドレスなんけどね。」


「叔父様・・・」


突然、ドナルドがセーラの前にしゃしゃり出てきました。


「おめでとう!!  僕は君と初めて会った時から僕だけは分かっていたよ。実はあのボロボロの服はプリンセスの仮の姿ってことでしょう?」


「ドナルド!! もう~また変なこと言ってるんじゃないの!!」


ドナルドと姉ジャネットの相変わらずのやり取りです。


「ハッハハ・・・・」


ドナルドを中心に周囲は笑いに包まれました。


第45話へ続く。