私は、さらに話し続けた。
「例えば、この足元に石が転がっている。 この石を踏んだらかわいそうだと思うかい?」
彼は、首を横に振った。
「まぁ、普通はそうだね。 ただの 『物』 だからね。 しかし、これは、 「石という名前」 がついている」
「……まぁ、そうですね」
「私たちニンゲンは、その名前を知ることにより、石という存在を認める。 そして、生き物ではないと認識すると、あまり気にしなくなる」
「それとこれの違いってなんですか?」
「つまり、人間が作った名前の仕組みにより、物の存在を理解する。 しかし、名前、戸籍、記憶、存在価値、そのすべてをなくしたものは、ただの 『モノ』 でしかない。 だから、どんなことがあっても、気にならないし、法にも触れないのさ」
「しかし、そうでないこともあるのではないですか?」
「誰かがそれを認めなければ、それはただの 『モノ』 となる」
「納得できないのですが……」
「かもしれない。 しかし、それを作ったのは、この社会なんだよ」
彼は、黙っていた。
「この世界で、社会が存在を認めなくなったものは、 『モノ』 として扱われる。 そして、その評価は誰もしなくなる。 それが彼らなんだよ。 どのようにされても文句を言わない。 主張もできない。 殺されても、死んでも気にされない。 しかし、人間はそれを求めたんだ。 文明が進化すると、人は退化するもんだよ」