少年と兵士は、目的地に着いた。
そこは、沼地のようなところで、異臭が鼻をついた。
その場所の中央に、一輪の花が咲いていた。
少年は、確信した。
あれがそうなのだと。
薄暗い月明りに照らされた花は、透き通っているように見えた。
まるで、薄い絹でできているようだ。
二人は、そこに近づくと、目の前の沼地が壁のように立ちはだかった。
兵士は、一瞬あとずさりしたが、すぐに身構えて剣を抜こうとした。
それを少年はやめさせた。
明らかに、その壁は生きていた。
何かを叫んでいるようだった。
「何か叫んでいるように聞こえますね」
兵士はそっと、つぶやいた。
「聞こえる……彼らの声が聞こえる……」
少年は歯を食いしばりながら言った。
次第に涙があふれ出しはじめ、止まらなくなった。
「そうだ。そうだよ。みんな同じなんだね」
そういうと、少年は近づき始めた。
「この塊は、僕と同じ感情だ。 イヤ、僕そのものだよ。 全てを憎み、産まれてきたことを後悔し、ぬくもりや安らぎを知らずに生きてきたんだ。 ここに来た人たちは、みんなここに過去の感情を捨てていったんだね」
「これ以上近づくと……」
「いいんだよ。 僕はこいつと一緒に消えるから。 やっと、この世から卒業できるんだ。 こんなうれしいことはないよ。 この身体と別れられるからね」
「…………」
「もともと死に場所を求めていたんだ。 だから、これでいなくなれるなら、最高なんだよ。 彼女のために、彼女の笑顔のために、死ねるのだから」
「……でも、なぜ……?」
「あの方は、僕にぬくもりを与えてくれた。 僕にはこれ以上ないものを。 だから、せめてもの恩返しさ。 あと、彼女のところに戻ったら、伝言を伝えてほしいんだ。いいかなぁ?」
兵士は、強く頷いた。
全 無帰