男の耳元に、いつも聞こえる声がある。

 その声を掻き消そうと、彼は人生から逃げ出した。

 

 男の身体は、イグアナのような皮膚をしており、誰かに触れれば傷つくような鋭い爪があり、声はしゃがれて、ときどき牙が見え隠れする。

 常に、周りからは、石を投げられ、いつもモンスター扱いされてきた。

 人生の道では、彼は苦痛だった。

 多くの人たちの視線と、心の声が、彼を苦しめていた。


 「何だあれ?」

 「まさに化け物だね」

 「あんなふうに生まれなくって良かった」

 「……気持ち悪い……」

 「何でこんな児が生まれてきたのだ?」

 「あの時、やめておけばよかったんだよ!」


 男にとって、周りはすべて敵だった。

 もし許されるのなら、誰かにこの人生から抹消して欲しかった。

 自らの意思では、どうしても決断ができなかったからだ。

 

 男は、月夜だけしか存在しない世界へと逃げていった。

 彼にとって、月明かりはちょうど良かった。

 本当の自分をさらけ出さなくてすむからだ。


 月だけが照らし続ける 「月世界」 は、普通の人は立ち入らない。 上辺だけでも明るい世界にいたがるからだ。

 男は、そこの世界の砂漠地帯に身を潜めた。

 そして、静かに眠ることにした。






全  無帰









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