今まで、忘れていた記憶だった。
うるさい両親もいなくなり、それなりに一人暮らしを楽しんでいた。
それなのに、封印していたこの記憶を引っ張り出した。
というのも、その犯人は、俺の友人だった。
仕事から帰ってきたときに、彼から電話がかかってきたのだ。
「なぁ、ライヴ ストックに行く方法を教えてくれよ」
友人の質問に 「しらねぇ」 と答えた。
「そんなことないだろ? だって……」
そこまで言いかけて、友人は黙った。
俺の前では、親のことを話すのはタブーだったからだ。
俺にとっては、どうでもいいことだが、ほんの少しだけ気になった。
「何で、あんなとこに行きたいんだ?」
「だって、誰も争わないし、傷つくこともないし、仕事も勉強もしなくていいんだよ」
「それのどこがいいんだ?」
「お前にはわからないんだよ。常に冷静なお前には」
友人は、投げやりに答えた。
俺は、思いっきり否定しようとして止めた。
別に冷静なんかではない。
単純に言えば、人としての感情をうしなっただけだ。
結局、友人は、独り言をつぶやきながら、電話を切った。
どうやら、俺に電話したことを後悔し、他の人の名前をぼやいていた。
別の誰かの候補でも見つけたみたいだ。
それからというもの、この日から一切、友人からは連絡が来なくなった。
全 無帰
