「なに?」
「あの、えっと.......爽太さんじゃない、ですよね.......あの、なんでもない.......です」
「どこかで会ったことあったっけ?」
松本にじろりと睨むように見つめられて、伊野尾さんがますます泣きそうな顔になる。
「あー!潤くんが可愛い子いじめてるー」
「え?!俺?!いじめてないだろ!」
「じゃあ、なんでこの子泣きそうな顔してんのさ」
いつの間にか近くに来ていた二宮が、伊野尾さんを指さしながら松本に絡む。
「ごめんね?この人、こんな見た目だから誤解されやすいんだけど、本当は優しい人なんだよ?」
「.......知ってます.......あ、いえ.......この方とは初対面ですけれど、そっくりな人のことはよく知っておりますので.......
って、あれ.......私、すごく変なこと言ってますよね.......」
「.......ねぇ、本当に大丈夫?顔、真っ青になっちゃったけど.......」
明らかにさっきよりも顔色が悪くなった伊野尾さんを見て、二宮が慌てて伊野尾さんの肩に手を置いた。
「え、俺のせいなの?俺、何にもしてないけど.......なんかよくわかんないけど、ごめんね?」
慌てた様子でそう言った松本が、伊野尾さんに一歩近付こうとしたら、ぴくりと肩を揺らして、伊野尾さんが一歩後ろに下がって、ふるふると首を横に振った。
「いえ、そんな.......!あの、ちょっと色々が色々すぎて.......僕、夢見てるのかな.......
本当に皆様に色々とご迷惑をおかけして申し訳ございませんっ!
.......あの.......迎えが参りましたので、失礼させていただきます。
相葉様には、後日改めてお詫びに伺わせていただきたいと存じます。
お召し物は明日か明後日にでも.......いえ、今日の夜でも、いつでもご連絡頂ければすぐに受け取りに伺いますので.......ご都合のよろしいお時間をご連絡くださいませ」
また深々と丁寧にお辞儀をして『シュピ、come』と言った伊野尾さんがよろりと歩き出す。
「伊野尾さん、ほんとに大丈夫かな?なんかすごいフラフラしてるけど」
雅紀と知念くんが心配そうに眉をひそめた。
「さっき、潤くんがいじめてましたからね」
「いじめてねぇよ!」
よろよろと河川敷の階段を上る伊野尾さんの背中を見送っていたら、黒いリムジンがすーっと近寄ってきて伊野尾さんの目の前で停車した。
「「うっわ、ロングリムジン!」」
松本と二宮の声が見事にハモる。
知念くんも『あんなの、初めて見た!』って驚いた声を上げた。
そのリムジンの中からスーツを着た人が出てきて、流れるような所作でドアを開けて、シュピと伊野尾さんが乗ったのを確認してドアを閉める。
なんなんだろ、ドラマの撮影でもやってんのかな。
それとも、伊野尾さんがめちゃくちゃ金持ちのおぼっちゃまだったんだろうか.......
「え!なにあのスーツ!すごい!絶対すごいやつ!伊野尾さんが着てたシャツもすごく仕立ての良いやつだったけど!えー!どこのスーツだろ?俺の服、クリーニングなんてしてもらわなくていいけど、スーツ見せてもらいたいって言ったら怒られるかなぁ.......」
「リムジンじゃなくて、そっちなのかよ!」
「え!だってすごいよ、あのスーツ!生地も絶対いいやつだよ!オーダーメイドかなぁ.......」
リムジンじゃなくて、ドラマか映画じゃなきゃお目にかからないようなシーンでもなくて、リムジンから出てきた人のスーツに目を輝かせて反応するとか.......そんなところが雅紀らしいっちゃぁ雅紀らしいけど.......
「あいつ、何者なんだよ.......マジで怪しいって.......」
「金持ちであることは間違いなさそうですけどね」
そう呟いた松本と二宮が、俺の手の中にある金色の名刺を見つめて『貴族探偵』なんて聞いたことないけど.......って同時に呟いた。
おしまい