『今日も凄かったよね!』
画面の向こうで目をキラキラさせながら興奮気味に話し出す。
ありがたいことに今回もオリンピックやパラリンピックに携われて、何度か選手とお会いしたことのある俺も雅紀も、どうしたってテンションは上がるし、いつもとは違う会場の雰囲気にどうにかしてこの熱気を届けたいと意気込むのは当たり前なことで。
だから、画面越しに向かい合って1杯やりながら、お互いに見てきたものを話し合って情報を共有しているこの時間は、ものすごく充実していて最高な時間ではあるのだけれど……もうすぐ日付が変わりそうな時間をさしている時計をちらりと見上げた。
「……なぁ」
『なぁに?どしたの?』
少し色の変わった俺の声にすぐに気がついて、ふんわりと笑う。
「10年、だな」
『……うん???』
ぱちぱちと瞬きをしながら首を傾げるお前に、触れられないのがもどかしい。
「……また、行きてぇな、海」
『……あっ!!!!!』
ぴょこんと飛び上がってから座り直して『くふふふふふふ』と、嬉しそうに笑う。
『そうだねぇ。また一緒に行きたいね?今度はお泊まりして、ゆっくりしようよ』
実際に海に行ったのは今日ではないけれど、放送されたのが今日だから、今日が記念日ってことになってるらしい。
なんで俺だったのか、とか、その後の他のメンバーでの企画はどうなったんだろう、とか、思い返したら『なんで?』って思うようなことばかりだったけど、あの日は俺にとっても特別な一日だったから、あの企画だけで終わりになったことがさらなる特別感を感じさせてくれて嬉しかったりもするわけなんだけど。
「いろいろ落ち着いたら、また一緒に行こうな」
『とりあえずは、パラが終わったらしらすのペペロンチーノ作ってあげるね?』
「マジで?やった!しっかし、あん時よりだいぶレベルアップしたよな?今じゃ寿司も握れるんだもんなぁ……まぁでも、あそこで食べたやつが俺ん中でダントツの1位なんだけどさ」
『もー!しょーちゃん、何回言うのそれ!あれ、全然味しなかったじゃん!』
「だから、味じゃなくて、気持ちなんだって!」
あの時は、俺のために作ってくれたっていうことが本当に嬉しくて。
放送されたのを見たら、かなりのドタバタっぷりで、びっくりするやらおかしいやら可愛いやらで、腹抱えて笑いながら何故か涙がこぼれてきたのも今となっては懐かしすぎる思い出だ。
『ねぇ、さっき、10年って言った?もうそんなになる?あ、でも、そうか……今年2021年だもんね?』
指をおって数えていたのか、それとも何となく動かしていただけなのか、たたんでは伸ばした指を下ろしてふぅーと、息を吐く。
『なんかさ、いろいろあったよね』
「まぁ、10年も経てばな……」
そう答えながらも、変わっていないものもあるけどな、なんて心の中で呟いたら、全く同じ言葉が聞こえてきて持ち上げた缶ビールをテーブルに置いた。
「え?」
『くふふ。だからさ、変わってないものもあるけどね!って言ったの!』
「……」
『え?なに?しょーちゃん、固まっちゃった?おぉーい!繋がってる?』
画面いっぱいに雅紀の顔が映る。
「近ぇよ!」
『あ、ちゃんと繋がってたー!』
あひゃひゃって笑う声も、そういえば変わってないなって思って頬が緩む。
「いや、さっきさ、全く同じタイミングで同じこと思ってたからさ、俺も」
『そっかぁー!そうだよね!さすが、俺としょーちゃんだよね!』
くふくふと笑う幸せそうな笑顔に、あー、俺って幸せだな、なんて思ってみたりして。
『……しょーちゃん、気持ち悪いよ?』
「はぁ?」
『だって、なんかひとりでニヤけてるもん』
「おぉーい!お前がいて幸せだなって思ってたんだぞ?なのに気持ち悪いってなんだよ。取り消せ、今すぐ取り消せ」
『しょーちゃんも近いって!ごめんごめん!俺もね、しょーちゃんがいてくれるから幸せだよ?』
「もっかい、言って?」
PCに近づいていた身体を起こして座り直す。
『えー……』
壁掛け時計が日付が変わったことを知らせる音楽を鳴らし始めた。
「あー、記念日過ぎちゃったな。まぁ、だからなんだって話だけどさ。記念日なんかなくても、こうやって一緒にいられるから良いんだけどさ」
本当は、抱きしめてキスしたりしたいけどなって呟いて、画面を指でトントンと叩いたら『もー!』って恥ずかしそうに笑う。
『これから先もさ、いろんな記念日、毎年一緒に過ごそうね、しょーちゃん。
10年経っていろんなことあったけどさ、しょーちゃんのこと大好きなのはずっと変わんないから』
「そうだな。俺もお前のこと大好きなのは変わんないよ、ずっと」
むしろ、愛おしさが増していくだけ、なんだけど。
『じゃあ、そろそろお開きにしよっか?明日もお互い忙しいしね?』
「おぉ、明日も終わったら連絡するわ」
『それじゃあ、しょーちゃん、おやすみなさい』
「おやすみ」
記念日だから、特別なんじゃなくて。
2人で過ごすから特別なんであって。
2人で過ごす毎日が特別な記念日になっていって、きっと気がついた時にはもう毎日がなにかの記念日で……
そんなふうに思える大切な人と出会えている俺は、 なんて幸せなんだろうって視線をあげたら、真っ黒になった画面に写っただらしのない顔の自分と目が合った。
おしまい
朝、お友達から「俺千葉10周年の記念日だよ!」と聞いて、なんか書かなきゃー💦ってなってこうなりました(・∀・)
これでよかったのか?とも思うけど、出しちゃう~!