「今度、相葉くんに料理教えてもらおうかな」
またビールでいい?って、俺の返事を待たずに店員を呼び止めてビールをオーダーした櫻井さんが、にっこりと笑って俺を見る。
イマドキ 休日にご飯を作れたりするのも、できるダンナの条件だったりすんのかな……なんて思いながら、ちょっとだけ投げやりに『いいですよ』って言って、きゅうりの浅漬けに箸を伸ばした。
「毎日外食じゃ、財布にもカラダ的にも厳しいからさ」
「え?」
なにをどう聞き間違えたら『毎日外食』なんてワードになるんだろって思ったけど、昼メシのことを言ってるんだろうなって思い直して、きゅうりをバリバリと噛む。
「こう暑いとさ、夜とかヘビーなのは食いたくないじゃん?かといって、毎日蕎麦って訳にもいかないしさ……って言いながら、実は蕎麦ばっか食ってたりすんだけどさ」
「っっ!!!!!……いってぇ!!!!!」
「どした?」
「舌……かんじゃった……」
「大丈夫?」
「……はい」
昼メシだけの話なんだと思ってたのに、夕飯も、とか言うからビックリして、きゅうりと一緒に舌を思いっきり噛んじゃった。
だって、昼も夜も外食って……
結婚してるんじゃないの?
奥さんと夕飯食べたりしないの?
黙り込んだ俺を思いっきり眉根を寄せて心配そうに見ている櫻井さんに、べーって、舌を出して見せてみる。
「うわ……血、出てる」
「大丈夫です。アルコール消毒しますから」
本当は、全然大丈夫なんかじゃないけど。
舌だってめちゃくちゃ痛いし、心臓はバクバクしてるし。
櫻井さんのプライベートなんて、俺にはなんの関係もないはずなのに……なんで俺の心臓はバクバク勢いよく動いているんだろう。
『おまたせしました~』って、タイミングよく渡されたビールのジョッキを勢いよく傾ける。
「……☆△◎✕@#*~っっっっっ!!!!!」
「ちょっ……相葉くん、大丈夫?!」
ジョッキを落としそうになった俺の手とジョッキを ものすごい速さで櫻井さんが掴んだ。
少し汗ばんだ手。
ゴツゴツした、男の手。
それなのに、また、俺の心臓は大きな音を立てる。
櫻井さんは、両手でそっと俺の手からジョッキを取ってくれて、そのまま、左手で俺の背中を優しく撫でた。
「なんか、しみなさそうなやつ頼もっか」
「ふみまひぇん……」
「ふふ、涙目になってるよ。なんなら食べられそう?残念ながら、これも没収だな」
ニヤリと笑って、俺の飲みかけのジョッキに口をつける。
「あぁっ」
思わず、出た声に、また櫻井さんが笑う。
「また今度、それが治ったら飲み直そうぜ。快気祝いで奢ってやるから」
「……はぃ……」
俺が思わず叫んじゃったのは、そこじゃなかったんだけど。
……いや、うん。
櫻井さんとまた飲みに行けるのは、すげぇ嬉しいけど。
じんじんと痛む舌を庇うように両手で口を押さえながら、美味そうにジョッキを傾ける櫻井さんの横顔をぼんやりと眺めた。