「相葉くん!!」
後ろから聞こえた声に、びくりと肩が上がって、ゆっくりと振り返る。
「……お久しぶりです」
「ホントに久しぶりだよね。同じフロアなのに全然会わないからさ!」
ぽんって、嬉しそうに俺の肩を叩くけど……
そりゃそうだろ。
なるべく会わないようにって、気をつけてるんだから。
「この間は迷惑かけちゃったからさ、改めてどう?」
くいって、コップを傾ける仕草で笑うけど……そんなの、無理じゃん。
またふたりっきりで飲むとか、俺、どうしたらいいのかわかんなくなっちゃうから。
「……あ……予定、ある?」
「……いや、ないっす。なんもないっす。行っちゃいます?」
あぁ、もう、バカ。
俺のバカ。
けど、残念そうな顔を見せられちゃったら、断るなんて選択肢は出せなくて。
「この間、うまい店見つけたんだよ」
俺の返事にすごく嬉しそうな顔をして、早速予約しちゃおう!なんて言われたら、さ……
……期待、しちゃうじゃん。
嬉しいって、思っちゃうじゃん。
櫻井さんにそのつもりはなくても、さ……
だけど、その顔を見て、この数日間ひとりで悶々と悩んでたのが馬鹿らしいって思えるくらいに、答えはひとつしかないって分かったから、それでいいかって思えちゃった。
「あ、今、携帯持ってる?店の地図送るからさ」
「そう言えば、連絡先聞いてなかったですね」
ポケットからスマホを出して、櫻井さんと連絡先を交換する。
「じゃ、後で地図送るわ。19時に予約したから。現地集合で大丈夫?」
「大丈夫です!今日はマッハで仕事片付けます!」
答えが出たところで、何がどうなるってもんでもないけど。
むしろ、辛いだけじゃんって、分かってはいるけど。
「俺、今から外だから、なんかあったら携帯に連絡して?」
「きっと、なんもないです。絶対時間どおりに行きます」
「ははっ。なんだよそれ……じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい!」
へにゃって眉毛をさげて笑いながら、櫻井さんが片手をあげる。
ぶんぶんと手を振ったら、櫻井さんも小さく手を振り返してくれて、どうしたって顔がにやける。
廊下の角を曲がる背中を見送ってから、ゆっくりと手を下ろした。
とくとくと小さな音を立てている鼓動に、体温が少し上がった気がして、シャツの袖を少し捲る。
この間、櫻井さんが掴んだ右の手首を左手でぎゅって握った。
もうそこに、あの手の感触はないけど。
だけど、覚えてる。
だけど、わかってる。
あの時なんで、その手を離せなかったのかって。
もう仕方ない。
どうしたってどうにもならない。
俺は、櫻井さんが好きなんだ。