「飲み直すか」
結局、あの時の俺の決意は、運ばれてきたデザートに邪魔をされてあっさりと流された。
これはやっぱり櫻井さんに気持ちを伝えるなってことなんだろうか……と思いながらも、このまま黙っているのはもう限界に近い。
「どこ行く?なんもないけど、ウチくるか?ここからなら雅紀の家より俺ん家の方が近いよな 」
話があるって切り出したのに、話し出すタイミングをなくしてしょんぼりした俺を気遣ってか、櫻井さんが早口で言葉を繋げる。
そんな優しい櫻井さんがやっぱ好き。
「ほら、まだ店開いてるから、なんか買って帰ろ?明日は土曜だし、とことん付き合うからさ」
ほんとに優しいから、勘違いしちゃうんだよ。
「ほんとに、とことん付き合ってくれる?」
「おう、とことん付き合ってやる!今日は泊まってけ!」
「じゃあ、いっぱい買っちゃう!」
もしかしたら、これが最後になるかも、だし。
『好きです』なんて、伝えたら……ね?
お泊まりは無理かも、だけど。
2人でひとつずつカゴを持って、これでもかってくらい色々詰め込んで『こんなに食うのかよ』って、櫻井さんが笑う。
「おーもーいー」
「手ぇちぎれる〜」
「その前に袋がやばい!」
くだらないことで笑いあって、ちょっと酔ってるフリして櫻井さんと肩をぶつけながら歩くこの時間が、すごくすごく幸せで。
「初だよね!櫻井さんの家!」
「うん?あー、そう。いつも、雅紀の家かニノの店で集まってるもんな」
鍵を開けて、『どうぞ』って櫻井さんがドアを開いた。
「おじゃましまーす」
しんと静まり返った櫻井さんのマンションの部屋。
……奥さんと過ごしてた、場所。
櫻井さんの家で集まらなかったのは、奥さんのこともあったから、なんだよな。
知らない人に台所を使われたら嫌だと思うし、いくら出張で留守とか言っても、予定が変更になって奥さんが帰ってくるかもしれないそんな場所でみんなで過ごすのはちょっと気が引けて……
そんなことを思い出したら、俺はいま、何してんだろって、浮かれてた心が冷静さを取り戻した。
やっぱり、櫻井さんの家でこの気持ちは伝えちゃダメなんじゃない?奥さんとの思い出がある場所に、俺が入っちゃダメなんじゃない?
「どした?」
動きを止めた俺を振り返って、櫻井さんが首を傾げる。
「……あの……やっぱ俺、帰ります……」
「え?あ!ちょっ……」
スーパーの袋を床に投げるように置いて、ドアを開けて外へ飛び出した。
……はず、だったのに
「なんで逃げんだよ」
耳元で聞こえる櫻井さんの声に胸がギュッて締め付けられる。
「ほんっとに、お前は……」
ごちん、って音がするくらいの勢いで櫻井さんのおでこが俺の後頭部に当たった。
首筋にかかる櫻井さんの息に、どうにかなっちゃうそうなくらい心臓がバクバクしてる。
「俺に話したいこと、あったんだろ?ちゃんと聞かせて?今日はとことん付き合うって、言ったろ?」
俺を抱きしめていた手を離して、今度は俺の腕を掴んでから『ほら、さっさと靴脱いで上がれ』って櫻井さんが言う。
「……後悔しても知らないからね?」
「後悔?」
「俺の事、連れてこなきゃ良かったって思っても知らないからね?」
何とか絞り出した声でそう言った俺を見て、櫻井さんはふって息を吐いて笑う。
「お前こそ、後悔するかもよ?」
「え?」
『なんで?』って言おうとしたのに、その言葉は櫻井さんに止められた。