「どうでした?お泊まりは」
眠そうな顔でキーボードを叩くニノのデスクにコーヒーを置いたら、ニノが手を止めずに俺に問いかけた。
「イマドキの高校生って、なに考えてんのかわかんねぇな。てか、そっちこそどうだったんだよ」
「してやられましたよ、アイツに」
アイツ、というのは『tempest』のことだろう。
「せっかくパッチ当てたところ、綺麗に剥がされて綺麗に埋められてました。完敗ですよ、ほんとに」
パチン、とエンターキーを押した後に、コキコキと首を鳴らしながら楽しそうにそう言って、俺を見上げてニヤリと笑う。
「で?翔さんは?」
その楽しそうな表情に、俺の中で『まさか』が確信に変わった。
「……俺と相葉くんをふたりにしたのって、それを確認するのが目的だった?」
「たまたま、ですよ。たまたま。あ、でも……もしかしたら、アイツがそうなるように仕向けたのかもしれませんしね」
もしそうだとしたら、やっぱりビンゴだよなぁと呟いて、コーヒーに口をつけてから楽しそうに笑う。
「正直、わかんねぇな。ニノが疑ってんのは、どっち?」
「どっちも、ですよ。『tempest』も『神』も、ほぼ同じくらいから名前を聞くようになったんです。
相葉くん、あんだけ技術があるのに……イマドキの子がネットを使わないってのも不自然でしょ?スマホネイティブ世代だもん」
「けど、ネイティブ世代だからこそ、嫌な面も知ってるんじゃないの?
それに、俺と居る時にマシンはいじってなかったと思うけど……」
「翔さん、相手を誰だと思ってんですか。『tempest』も『神』も、尋常じゃない使い手なんですよ?」
「いや……そう、だけど……」
ニノが『完敗』だという相手。
それが、相葉くん?
「ウチの案件にばっかり手を出してくるのも偶然とは思えないんですよね」
「『ばっかり』って、まだ2件だろ?」
立て続けだったとはいえ、まだ『偶然』といえる回数だ。
「それは、表に出た数」
ニノがニヤリと笑ってクリップで留めた紙を俺に差し出した。
A4の用紙にずらりと並ぶクライアントの名前。
「……嘘だろ」
「とにかくさ、向こうもそう簡単に正体をばらすってことも無いだろうし……今後も気をつけておいてくださいよ、翔さん」
するりと俺の手から紙を引き抜いて、シュレッダーに差し込む。
「気をつけるって、何に?
『tempest』はいつ接触してくるのか分からないし、相葉くんだって、ニノが自分のことを疑ってるんじゃないかって……」
ニノが左手を挙げて、俺の言葉を遮った。
「まぁ、こっちの考えてることなんて、完璧に読まれてるんでしょうけど。
でも、アイツがしっぽを出すとしたら、翔さんのとこ以外ありえないんです」
「俺以外ありえないって……」
なんで断定出来るんだって言おうとした時にドアが開いて、でっかい欠伸をしながら潤が入ってきた。
「はよ。あれ、カズ帰らなかったの?」
「潤くんおはよう。ちょっと色々気になってね。どうせ俺、今日は外出の予定ないし問題ないでしょ?てか、一段落したから仮眠してきていい?」
「あー、いいんじゃね?大野さんもちょっと遅くなるって言ってたし。
翔さん、これ昨日のレポート、ざっと書いたから目を通して直すとこは直してくれる?」
潤がメモリスティックを投げてよこす。
「了解」
「じゃ、おやすみー」
後はよろしくーってひらひらと手を振りながらニノが仮眠室へ入っていく。
結局、俺はどうしたらいいのか分からないまま。
小さくため息をついて、メモリスティックをマシンに突っ込んだ。
「マジですごいよ、あいつ」
「ん?」
「『tempest』さ、マジですげぇ。あいつを手に入れられたら、ウチも安泰だよ」
「……なに?」
視線を感じてディスプレイから目を上げたら、潤がこっちを見てにかっと笑う。
「頼むね、翔さん」
「……俺に言うな」
だから、なんで俺なんだよって小さく呟いて、解凍されたファイルの文字を目で追った。