なんだってあの人たちは、余計なことばっかり言うんだろう。
修介さんがいる前で『どっちもハジメテ』とか、余計なお世話だっつーの!!!!
「達也?」
心配そうな修介さんの声が後ろから聞こえたけれど、振り返れるわけがない。
だって、自分にだってわかる。
きっと、耳も首も真っ赤になってる。
あの人たちの言うことは聞き流してねって、言った僕に、修介さんは何も聞かずに後をついてきてくれてるけど……
僕の勝手な気持ちで、修介さんに不愉快な思いをさせているんだろうな…と思ったら、足が止まった。
「おわ」
僕のすぐ後ろで、修介さんも止まる。
ダイキチが首を傾げて、動かない僕を不思議そうに見上げて、そのまま、ぺたんと腰を下ろした。
……なんて言おう。
どう言ったら、僕のこのぐちゃぐちゃな気持ちが修介さんにきちんと伝わるんだろうって考えながら、ゆっくりと口を開いた。
「僕、さ……恋人とか、いた事ないんだ。実際、そんなことしてる余裕もなかったんだけど……
だからなのかなぁ、あんなふうによくいじられててさ……
そしたら、この際男でもいいとか、母さんに言われてさ……だから、ごめんね?母さんたちが変な事言って」
修介さんの顔が見れなくて、ダイキチの白い前足と並んだ自分のスニーカーのつま先をじっと見つめた。
修介さんは黙ったまま。
自分の言葉を頭の中で繰り返して、なんだか余計なことまで言った気がして、また耳が熱くなる。
「俺も、恋人なんて呼べる人、いた事ないよ」
「え?」
後ろから聞こえた声に驚いて振り返ったら、修介さんがニヤリと笑う。
「学生の時はカノジョって呼べるような子もいた事はあるけど……若気の至りってやつ?」
「若気の至りって……そんなふうに言ったら、かわいそうじゃない?」
「うーん。お互い様じゃない?向こうも俺の見かけだけが好きだったみたいだし、想像してたのと違ったって、あっさりフラれたし」
ちょっとおどけた顔で、修介さんがそんなことを言うから……
彼女がいたっていう事実よりも、その人への気持ちがそんなに大きくなかったということにほっとしている自分に驚いた。
「……なんか、ちょっと修介さんの印象変わったかも」
「そう?クソ真面目なだけのセンセイだと思ってた?」
ちょっと悪い顔で目を細めて笑うその表情に、背中がぞわりと粟立つ。
「俺も、オトコなんでね、一応」
真っ直ぐに見つめられたまま、動けない僕。
不意に、修介さんの右手が伸びてくる。
心臓の音だけがやけに大きくなって、動かなきゃ、と焦る分、鼓動のスピードがどんどん上がって、息苦しい。
なにかに縋りたくなって、ダイキチのリードをぎゅっと握りしめた。
「おっと!あっぶね!」
急に視界から消えた修介さんにハッとして、ようやく動いた右足を1歩後ろに引いた。
「ふたり同時には、無理か」
ぽつりと修介さんが呟いて、六華ちゃんを抱え直しながら僕を見上げる。
「さすがにずっと抱えてると重いな」
「あ!そ、そうだよね!早く行こう!」
修介さんに背中を向けて、バレないように大きく息を吐いた。
何を期待してるんだろう、僕は。
修介さんが僕を抱きしめようとしたなんて、そんな勘違いをするなんて。
修介さんと僕は、六華ちゃんの飼い主とかかりつけの獣医でしかないのに。
どういい方に考えても『友達』にしかなれるわけないのに。
勘違いしちゃダメだって、自分にいいきかせながら階段を1段ずつ上がっていく。
そんな僕の心を見透かしたように、階段の上の神社から冷たい風が吹いてきて、僕の髪の毛をそっと揺らした。