「青江さん、どうぞお上がりください。すぐお茶を入れますから」
「どうぞお構いなく。すぐに失礼しますから」
「まぁまぁ、そう言わんと。どうぞどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ……」
豆福にグイグイと背中を押されて歩いている修介さんが、苦笑しながら僕を見る。
「ごめんね、修介さん。すぐ六華ちゃん連れてくるから……」
「「「修介さん?!」」」
「あ、達也、俺も行くよ」
「「「達也?!」」」
「もう!いちいちうるさいって!」
いつの間に名前で呼び合う仲になってるの?!なんて盛り上がってる母さん達にそう叫んだら、修介さんが、あははって楽しそうに笑った。
「ホントにうるさくて、ごめんね?」
「いや、毎日すげぇ楽しそうだけどな。っていうか、弄られまくってんだな、お前」
『お前』って呼び方に、ちょびっとだけ鼓動が跳ねる。
また少し、修介さんとの距離が近づいたみたいな、そんな気がしたから。
「僕はちっとも楽しくないけど。風呂だってのんびり入れないしさ」
「え?」
「……覗かれんだもん。だから、修介さん、うちには絶対泊まらない方がいいよ」
「マジか!それはちょっと想像の上をいってるなぁ」
また、楽しそうにあははって笑った修介さんが、コホンって小さく咳払いをした。
「のんびり風呂入りたくなったら、ウチ来れば?広くもないっていうか、どっちかっていうと狭い普通のマンションの風呂だけど、覗かれる心配はないと思うよ」
「……え?」
その言葉以外の意味なんて、あるわけないってわかってるけど。
「おー、ダイキチ。相変わらず犬じゃないみたいだな、お前。六華と一緒にいてくれてありがとな」
部屋の入口でしゃがみ込んで、近づいてきたダイキチをわしゃわしゃ撫でながら笑う、その背中をじっと見つめた。
「……ホントに、行っちゃうよ?」
「え?」
「そんなこと言ったら、ホントに行っちゃうよ?」
口から零れた言葉は、なかったことにできないのに。
僕を見上げた修介さんが、ふわって笑う。
「いいよ、いつでも。六華もきっと喜ぶし。あ、でも、部屋はこんなに綺麗じゃないよ?」
ホントはダメだって
期待なんかしちゃいけないって
そう思うのに、修介さんを好きだって思う気持ちはどんどん加速していく一方で……
修介さんの腕の中で、ぱたぱたと尻尾を振っている六華ちゃんの頭をそっと撫でて、お茶が入ったわよって母さんの声に修介さんと目を合わせる。
「今来たのに、また置いていったら可哀想だよな?」
「修介さんが抱っこしてたら大丈夫かな。おいで、ダイキチも一緒に行こう?」
そういう、優しいところが好きなんだ。
言葉の端々に感じる、優しさが。
きっと、誰にでも優しくて、僕がとんでもない勘違いをしているだけ、なんだろうけど。
「母さん達の話は8割……ううん、9割くらいは聞き流してね」
「マジか」
あははって笑う修介さんに、僕の心臓はやっぱりドクンって大きな音を立てるんだ。