いま、修介さんはなんて言ったんだろう。
手にしたお茶より、僕の耳の方が熱いかもしれない。
メニューを見るふりをして、修介さんから顔を隠した。
聞き間違い、じゃないよね?
お揃いのセーターが嬉しいって言ったよね?
そんなふうに言われたら、さ……
久しぶりに感じる感情を認めちゃってもいいのかな、なんて、そんなふうに勘違いしたくなる。
「修介さん、何にします?」
「達也は?」
耳に届く自分の名前がくすぐったい。
「えっと、僕は……鴨南蛮にしようかな」
「マジで?俺も鴨南蛮好き!あー、カレー南蛮も美味そうだけどなぁ……
やっぱ鴨南蛮にしよ。すいませーん!鴨南蛮ふたつ!」
キラキラした目でメニューを見る修介さんが可愛いとか、同じ食べ物が好きって、そんな些細なことも嬉しいって、もう本当にどうしようもないって、分かってる。
どうしようもないけど、どうにもならないってことも分かってる。
「美味そう!いただきます!」
ため息をつきそうになった時に蕎麦が出てきて助かった!って思いながら箸を手に取った。
蕎麦を食べ終える頃に、六華ちゃんを家に迎えに来るって修介さんが言い出して、朝の母さん達の会話を思い出して焦る。
だって、修介さんと一緒に帰ったら、母さん達に何を言われるか分かったもんじゃない。
家はうるさいからって断ろうと思ったのに、逆に修介さんが楽しそうな顔になった。
「へぇ!神楽坂って、本当に芸者さんがいるんだね」
嬉しそうな声に、胸がちくんと痛む。
そうだよ。そんなの分かってた。
修介さんも僕もオトコで、普通はお互いに好きになることなんてないんだってことくらい。
何を期待してたんだろって自分に腹が立つのと同時に、修介さんもやっぱり綺麗な女の子が好きなんだなって、なんだか悔しいような悲しいような変な気持ちになって、ゴトンと音を立てて蕎麦湯のポットをテーブルに置いた。
「え…と、なんか気に触ること言った?」
不意に聞こえた修介さんの声にはっとした。
僕、何を考えていたんだろう。
「……え?ないないないない!そうだよね!芸者さんって、なかなかね?」
慌てて修介さんを見上げたら、ほっとしたような顔になって優しく笑うから、僕の心臓がまたきゅって変な音を立てて縮まった。
どうしよう
どうしよう
どうしよう
「達也も弾けんの?三味線」
修介さんの全部にドキドキする。
「一応は……けど、もう何年も触ってないよ」
優しい声にも眼差しにも
「今度、聞かせてよ」
「えぇー……」
もう、なんて答えたらいいのかも分からなくなりそうで。
ふと見上げたら、真面目な顔で修介さんが僕を見ているから、また心臓が変な音を立てた。
「あらまぁ!」
「わぁ!イケメン!」
「ホンマにイケメンやな」
「六華がお世話になりました」
修介さんが母さんに、よかったらみなさんでどうぞって、さっき買った たい焼きの袋を渡すのを横目で見ながら靴を脱ぐ。
「達也さん、私、悔しいけど応援します!お似合いです!おふたり!」
「だから、何言ってんのか分かんないって……」
僕に近寄ってきたすず芽ちゃんの声が、修介さんに聞こえるんじゃないかってヒヤヒヤしながら振り返ったら、脱いだ靴を揃えていた修介さんが、俺を見上げてにっこりと笑った。