「これで全部?」
「修介さんが必要なものは買ったし、僕が欲しかったものも全部買えたかな」
荷物をトランクにのせてドアを閉める。
買い物が思いの外早く終わったな、と思いながら時間を確認した。
昼メシにはまだ早い時間だけど、早起きしたのにバタバタして、結局コーヒーしか飲んでいなかったことを思い出した。
さっきまでそんなことなかったのに、何も食べてないって気がついたら急に腹が減ってきて……
まだ早い時間だけど、昼メシ誘ってもいいかなって達也を見たら、ちょうど顔を上げた達也と目が合った。
「達也、ごめん」
俺の言葉に『ん?』って首を傾げるのが、可愛く思えるのはなんでなんだろう。
俺を見る瞳が不安そうに見えるのは、どうしてなんだろう。
腹が減ったって、朝メシ食べ損ねたって言ったら、えーって驚いたあとに楽しそうに笑う。
その瞳から不安そうな色が消えて、ほっとした。
「このちょっと先にさ、美味い蕎麦屋があるんだって」
蕎麦屋でいいのかってちょっと考えたけど、デートなわけじゃないだろってすぐに否定した。
男どうしのメシなんだから、美味けりゃなんだっていいんだよ。
30すぎた男ふたりで、偶然とはいえお揃いのセーターで……それで小洒落た店でメシなんて、気持ち悪いって。
いや、小洒落た店なんて知らないけど。
達也も蕎麦が好きって言ってくれたし、蕎麦屋でメシで問題なんて何もない。
スマホで店の場所を確認してからエンジンをかけた。
「あのさ……修介さんは、なんで大学の先生になったの?」
何を話そうかと考えていたら、達也が遠慮がちに口を開いた。
「なんでだろうなぁ……先生を目指してたわけじゃないんだけど。ただ、研究が楽しくて、気が付いたらこうなってたってだけで」
地球化学って、なんか難しそうって呟いた達也に、獣医の方が大変そうだけどなって言い返したら、そんなことないよって達也が食い気味に否定した。
「だって、獣医って人間の医者みたいに部門別に別れてないだろ?それに動物っていったって、犬猫の他に鳥だってなんだって、連れてこられたら診察するんだろ?体の作りだって全然違うじゃん」
「うーん、でも、それが楽しいっていうかなんていうか……」
「そもそも、さ。なんで獣医になろうと思ったの?」
信号待ちでちらりと横を見たら、うーんと唸りながら顎に手を当てる。
その横顔にみとれそうになって、慌ててハンドルを握り直して前を向いた。
「僕は動物が好きっていうのもあるけど、今、働いているところの前の院長先生に子供の頃からお世話になってて……」
そこで何かを思い出して、くふふ、と笑う。
「やっとそれなりの技術も自信も身につけて、先生と働けると思って実家に帰ってきたらさ、病院、もぬけの殻になってたんだよね」
「えぇ?!」
「『あとは任せた!』って置き手紙だけあってさ……もう、あの時は本当にどうしようかと思った~!!!」
けらけらと笑う達也に、鼓動が早くなるのが分かった。
先代の先生に、全幅の信頼を持って全てを任されたんだって、それだけの人物なんだって、改めてそう感じる。
「すごいんだな、達也は」
蕎麦屋の駐車場に着いて、パーキングブレーキを引きながら振り返れば、また耳が赤く染っている。
「すごくないよ。やるしかなかったんだもん」
「やるしかなくても、出来るやつだから任されたんだろ?」
「ほんとに、すごくなんてないんだって」
ほら、お腹すいてるんでしょ?早く行こうよって、さっさと車から降りた背中を慌てて追いかけた。