「先週宣言した通り、今日は、単元テストやりまーす」
ええーーーってブーイングは無視して、手にしたプリントの束を配っていく。
「まだ、裏のまんまなー。名前もまだ書くんじゃねぇぞ。制限時間は20分なー。
よーーーい、はじめ!」
ざわついていた教室が静かになって、一斉に紙をめくる音が響く。
忙しなく動くシャーペンの音だけが聞こえる教室の中をゆっくり歩いて回って、足元に落ちてきた消しゴムを落とし主の机にそっと戻した。
『しょーちゃん、消しゴム落ちちゃった』
『えぇ?』
『しょーちゃんの足元』
『マジかよ』
テスト中だってのに、アイツは……
向日葵みたいな笑顔を思い出して、胸の奥の方がちくりと痛む。
もう、20年近くも経っているっていうのに……アイツのことなら、どんな些細なことでも覚えてるんだ。
我ながら、痛いヤツだよなってため息をついて、窓の方へ視線を移す。
「もう終わったのか?」
窓の外を眺めていた、アイツにちょっとだけ似ている生徒に声をかける。
「まだ真っ白じゃん。ちゃんとやれよ」
そいつは俺を見上げて、恥ずかしそうに笑うとシャーペンを動かし始めた。
「慧、お前、ぼーっとするのはテストが終わってからにしろよ?」
授業のあと、また窓の外を眺めている慧に声をかける。
俺の声にびっくりした顔をして振り返って、また恥ずかしそうに笑う。
「てかさ、お前、いっつもこの時間外見てるよな?」
「櫻井センセの気のせいだよ」
慌てて窓から離れた慧の背中をぽん、と叩く。
「なかったことにするなよ?後から気がついたって、遅いんだ」
「え?」
怪訝な顔で振り返った慧に、大きく頷いてみせてからテストの答案とテキストをもって教室を出た。
授業中、グラウンドを眺める理由なんて、ひとつしかない。
そんな事にすら、気がつけなかったんだ。
自分の気持ちですら、わからなかったんだ。
最後に見たアイツの……あの不思議な笑顔の意味も。
後から気がついたって、どうにもならないんだ。
いつかは、忘れると思ってた。
だけど……
『しょーちゃん』
俺を呼ぶアイツの声が、今でも耳の奥に残っているんだ。