潤が持ってきたオードブルをテーブルの上に運んで行くのを見送って、入れ替わりでカウンターの中に入る。
カトラリーを取って、棚から皿を取り出している櫻井くんに声をかけた。
「さっきの、美味しかったよ」
「え?」
「『ブルーラグーン』美味しかった」
「あぁ……うん」
なんだか少し、ぎこちない感じで櫻井くんが振り返る。
「また作ってくれる?」
「いくらでも……作ってやるよ」
口の端っこだけで笑った櫻井くんの言葉が嬉しくて、僕も笑う。
ブルーラグーンのカクテル言葉は『誠実な愛』。
櫻井くんに会うまでは、そんなものはないと思ってたんだ。
だけど、キミは何度でも僕にそれをくれるから……
「櫻井くんには……お酒が飲めるようになったら、僕がカクテルをつくってあげるね?」
「……え……」
僕も変わらなくちゃって、そう思えるんだ。
少し眉根を寄せた顔をして、動きを止めた櫻井くんの手からお皿を取った。
きっと、僕の変化にキミは気づいているんでしょう?
どっちに取るのか、はキミ次第……なんて、そうやって逃げ道を作っている僕は、やっぱり狡いのかな。
またカウンターに戻ってきた潤が、片方の眉毛を上げてにやりと笑う。
なんだろう。
身体の奥の方がほこほこあったかくて、くすぐったい。
「まーくん、なんかいい事あったの?」
「雅紀さん、なんか、変わったな」
ソファに並んで座るふたりが、僕を見上げて同時に口を開いた。
『食いながら喋るんじゃねぇ』って、カズが智の頭をぺちんと頭を叩いて、智が『いてぇ』って、カズを睨む。
「いいコンビだよね、ふたり」
「てか、ふたりとも手伝えよ」
潤がビールとソフトドリンクを両手に持って笑う後ろで、櫻井くんがコップを載せたトレーを持って口を尖らせる。
「しょーくん、このエビフライめっちゃ美味いよ」
「なんで俺と智がコンビなんだよ、潤くん」
またふたりが同時に話し出して、『そういうとこだろ』って、潤が笑いながらグラスにビールを並々と注いだ。
「なんだよ、不満なのかよ」
「うるさいよ、智は」
ほらほら、乾杯するよって、カズが智と櫻井くんにジンジャーエールの入ったグラスを押し付ける。
「じゃ、今年もお疲れ。来年も、よろしく」
カズがみんなの目を順番に見て、最後に僕を見てにっこりと笑った。
……来年も、その先も……こんな風にしていられたらいいなって、思える自分に驚いた。
だって、今までは……
うううん、違う。
今までも、ずっと……僕はひとりなんかじゃなかったんだ。
「大丈夫?」
「くふふ、うん。ちょっともう、酔っちゃったかも」
右側の席から、まぁるい大きな目が僕を覗き込む。
「空きっ腹に飲むからだろ。ほら、食えって」
「くふふ、いらなぁい」
まぁるくて、大きくて、きらきら光る瞳も、羊のしょーちゃんとそっくりだなって思ったら、笑いが止まらなくて……
そんな僕を見て、櫻井くんが『酔っ払いめ』って、困ったような顔で笑った。