「きっつー」
丘の上に続く階段を上りながら、ひとりで呟く。
丘の下に広がる景色は、記憶とはだいぶ変わっていて、高層のマンションがいくつも建ち並んでいた。
「……え……」
土曜日の昼間だっていうのに、公園に子どもの姿はなくて、代わりに見た事のある細長い背中がブランコを揺らしていた。
茶色いやわらかそうな髪の毛が、ブランコが揺れる度にふわふわと揺れて、光にあたってキラキラと輝く。
その髪に触れてみたい、と思ったのはどうしてなんだろう。
「店長……さん?」
「え?あっっ!!!!」
振り向いて驚いた顔で立ち上がって、揺れたブランコにぶつかって、『いって!』って叫んでから恥ずかしそうに笑う。
その笑顔に『キュン』って効果音が、俺の胸のあたりに書かれたんじゃないかって、そんなマンガみたいなことある訳ないって思いながら、ただ、その人を見つめていた。
「くふふ。櫻井さんの目、落っこちちゃいそう」
「いや、マジでびっくりした。店長さんの家ってこの辺なんですか?」
何故か早くなった鼓動を誤魔化すように笑って、ブランコに近づいた。
さっき、店長さんの足にぶつかったブランコは、まだ不規則に揺れている。
「僕、雅紀です。相葉雅紀。店長さんって恥ずかしいのでやめてください」
「あぁ……だから『こぐまのまーくん』なんだ」
相葉さんの隣のブランコに腰を下ろして、少し揺らしてみたら、金具がキィ、と音を立てる。
長い足を前に投げ出して、相葉さんも隣のブランコにまた腰を下ろした。
「……やっぱり、どっかで会ったこと、ない?」
こんな所で会うんだから、やっぱり俺が覚えていないだけで、子どもの頃に会っていたんじゃないかと思う。
「僕、ここでよくブランコに乗ってました」
「え、うそ!」
「くふふ。だから、目が落っこちちゃいそうですって」
キィ、と音を立てて、相葉さんがブランコを後ろに引っ張った。
「僕、ずっと待ってるんです」
「え?」
「大切な、大切な友達を ずっと待ってるんです」
トン、と相葉さんのつま先が地面を蹴って、茶色い髪の毛がふわりと揺れた。