「ちょっ……なんでそんな話になんだよ」
「だって、その人の話してる時の櫻井さん、すげーいい顔してるから」
「だから、そんなんじゃねぇって」
自分にも言い聞かせるようにそう呟いた俺を、松本が片方の眉毛を上げて見た。
「いや、そういう人達がいるのは知ってるし、そういうのが気持ち悪ぃとか、信じらんねぇとか、そういうことじゃないんだけどさ」
じゃあ、どういうことなんだ?って、自分に突っ込んで、言葉に詰まる。
「なんか、変な事言っちゃってすみません」
「いや……俺の方こそごめんな?
てか、なんでお前がそんな落ち込んでんだよ」
何故かしゅんと肩を落とした松本に吹き出した。
「調子に乗って、余計なこと言っちゃったなぁって……
先輩に向かって失礼な事言って、ホントにすみません」
「いやいやいや。全然失礼とか思ってないから。
まぁ、色々思い出しついでに、久々に実家行ってみるわ。正月にちらっと顔出したっきり、戻ってねぇからさ。
確かに1人で考えてるよりは、誰かに話した方がスッキリするわ。ありがとな、聞いてくれて」
「いえ。思い出せるといいですね」
また真面目な顔に戻った松本に『おぅ』って返事をして、残りの煮魚に箸を入れた。
ふわりと笑うあの笑顔が、また甦る。
なんでこんなに気になるのかって、深く考えない方がいいような、そうでも無いような。
だけど、あの人の笑顔を思い浮かべるだけで気分が上がるのは紛れもない事実で。
どこで会った誰なのか、それとも誰かに似ているだけなのか……それが分かればきっと、この落ち着かない気持ちもどうにか落ち着くところに落ち着くはずなんだ。
ついでに『こぐまのまーくん』と、クマのぬいぐるみがどうなったのか、も、分かればきっとすっきりするだろう。
だけど……
今更、ぬいぐるみがあったところで、俺はどうするつもりなんだって、苦笑する。
30をとうに過ぎたおっさんがぬいぐるみと暮らしているだなんて、シュールすぎんだろ。
「あぁ!いたいた!櫻井!松本!」
遠くから先輩に名前を呼ばれて、松本と顔を見合わせて立ち上がる。
「嫌な予感しかしねぇな」
「帰れますかね、今日」
「終電コースかもなぁ」
あの店に行かない理由ができて、何故かほっとしたのは、松本の言葉が引っかかっているから、だろう。
また考え始めたらぐるぐると考え込みそうな気がして、慌てて気持ちを仕事モードに切り替えた。