「……ごめん」
「え?」
「何も、できなくて……なんにもしてやれなくて……ほんとに、ごめん……」
「ちょっと、櫻井くん……どうしたの?」
櫻井くんの声が、身体が、震えている。
「『好きだ』って、それしか言えなくて、ごめん。
ごめん、ほんとに、ごめん」
泣きながら何度も『ごめん』を繰り返す。
何が『ごめん』なんだろう。
謝らなくちゃならないのは、きっと僕の方。
ふつふつと泡を出し始めたミルクの中に茶葉を落として、蓋を閉めた。
震える手をそっと撫でる。
「泣かないで」
どうしたら、いいんだろう。
こんな櫻井くんは初めてだ。
「ミルクティー、できたから飲もうか」
「……うん」
マグカップにゆっくりとミルクティーを注いで、目を真っ赤にしてる櫻井くんの手に渡す。
うさぎみたいだな、なんて思ったけど、何も言えずに黙ったままソファに腰掛けた。
隣から、すんって鼻をすする音が聞こえる。
年下のくせに、妙に大人っぽくて。
かと思えば、ストレートに感情をぶつけてきて。
見かけは怖いのに、子供が大好きで、優しくて。
櫻井くんは、不思議な人。
櫻井くんといると、僕はびっくりするくらい笑うことが出来るんだ。
だから、何もできないなんて、そんなことはないのに……
「俺、ホントにガキで、どうしようもなくて……」
大きな目から溢れてくる涙に、思わず手を伸ばした。
「ごめんね。僕のせいだよね」
「ちが……俺、自分が情けないんだよ。
何したらいいのか、分かんねぇんだ。
相葉さんに笑ってほしいのに、どうしたらいいか分かんねぇんだ。
相葉さんのこと、なんも知らないで、ただ信じろとか好きだとか言うしかできなくて……
って、あああー!!!カッコ悪い!!!」
叫びながら両手で顔を覆った櫻井くんの、左腕に見えた赤いアトに心臓が凍りつく。
見覚えのある、赤いアザ。
振り払おうと思っても、離れなかった手。
痛いって泣いても、離されることのなかった、手。
『お母さん、痛いよ』
『お母さん、離してよ』
『お母さん、ごめんなさい。ねぇ、お母さん』
ギリギリと指が食い込む感触を思い出して、身震いした。
それが、なんで櫻井くんの腕に……?
手が震える。
……僕は、何を……?
櫻井くんの左腕を掴んで、セーターの袖を捲った。
縦に並ぶ、4つの丸いアト。
それはきっと……僕の右手がつけたアト。
「なんでもないって……」
僕の手を振り払って、櫻井くんはセーターの袖を下ろした。
「……僕、何した?」
あの女を見てから、さっき目が覚めた時までの間に、何があった?
「なんもしてねぇよ」
「嘘」
僕から視線を逸らした櫻井くんに、反射的に言葉がこぼれた。
何もしてないなら、なんで……
櫻井くんの腕についた赤いアト
唇に残る感触
「さくらい、くん……」
なんとか呼んだ名前に、櫻井くんの真っ赤な目がゆっくりと僕の方を向いた。