「時々、わかんなくなるんだ」
「ん?」
「俺って誰なんだろって」
ぎゅ、っと俺のシャツを掴んで雅紀が俺の胸にぴったりくっついた。
その背中にそっと腕を回す。
「『相葉雅紀』って、なんなんだろって……わかんなくなるんだ」
「そっか……」
「『相葉雅紀』は俺だけど、そのまんまじゃない。作ってる訳じゃないけど、本当じゃない」
「……うん」
雅紀の言いたいことは、なんとなく理解できる。
『相葉雅紀』のパブリックイメージ。
それと自分との乖離。
どれが本当なのかすら分からない様々な情報に、無責任な誹謗中傷。
「時々、消えてなくなりたいって思う。けど、応援してくれる人たちがいるから、それはできない。みんなに会えたら俺も嬉しくて楽しくて、だからこの仕事しかできないって、そう思うけど……」
何言ってるのか、わかんなくなっちゃったなって呟いた背中をぎゅうって抱きしめた。
「大丈夫。雅紀は雅紀だよ。アイドルの雅紀も、ここにいる雅紀も、全部雅紀だ」
「しょーちゃん……」
「多かれ少なかれ、誰だってそうだよ。仕事してる時、家族といる時、どの自分も違う自分だけど、それは全部自分なんだ」
一般人のそれと雅紀のそれとは、全然違うってことも分かってるけど。
「『アイドル』の意味、知ってる?」
「え?歌手とか、そういうんじゃなくて?」
少し身体を離した雅紀が、不思議そうに俺を見上げる。
「『idol』って、『偶像』って意味だよ」
「ぐうぞう?偶像崇拝、とかのやつ?」
「うん、そう。人気者とかって意味も、もちろんあるけどね」
「『偶像』って、人形だよね?」
「うん、本来の意味はね」
「そっか……」
また俺にぎゅってしがみついて、ふぅーって長いため息をつく。
「みんなだって、リアルの生活があって、それでも雅紀に……『相葉雅紀』にバーチャルで恋とか、憧れとかさ……してるんだよ」
だからお互い様じゃないかって、そんな簡単な話でもないんだけど。
バーチャルだけどリアルで、近いけど遠い。
その境目は、なんなんだろう。
「だけどさ、よく考えてみたら、近くにいたって、知らないことだらけなんだよ。
例えば……そうだな、大野チーフに恋人がいるかどうか、なんて俺は知らないし」
「えぇ?!」
「え?」
雅紀が驚いた声をあげるから、俺もびっくりして雅紀を見つめ返した。
「しょーちゃん、知らないの?」
「え?何を?」
「……大野さんのコイビト、ホントに知らないの?」
「……え……」
この状態で、そう言われるってことは……
相手は俺と雅紀が知っている人物ってことになる訳で……
にやりと笑ってウィンクを決める、あの人の顔が思い浮かぶ。
そうだとすると、今までのイロイロも、色々と納得できるけど。
「ウソだろ……」
そう呟いた俺を、くふふふふふふって笑いながら雅紀がぎゅうって抱きしめた。