「さとちゃん、そろそろご飯にしよ?」
「んー、もうちょい」
開け放った窓から夕方の涼しい風が入り込んで、窓辺に吊るした風鈴を揺らした。
ちりん、と涼やかな音が響く。
「わぁ、金魚!」
肩越しに俺の手元を覗き込んだ雅紀が、弾んだ声を上げた。
「くふふ、仲良しだねぇ。てか、本当に泳いでるみたい!」
2匹並んで泳ぐ金魚の絵に、さとちゃんと俺みたいだねぇって嬉しそうに笑って、俺のお腹に腕を回す。
「こら、くっついてたら描けねぇだろ」
「うん」
そう言うのに、背中にぴっとりとくっついたまんまの雅紀に苦笑して、色鉛筆を置いた。
「終わった?」
「それどころじゃねぇ」
「ひゃ!」
お腹に回った雅紀の手を掴んで、くるりと身体を回転させて、あっという間に雅紀を組み敷く。
「さとちゃん……ごはん……」
「うん。けど、こっちが先」
俺を見あげてまだ何か言いたそうな唇を塞いで、作務衣の襟を広げて、首筋に顔を埋めた。
「あっ……」
昼間、あんなに賑やかだった蝉の声はもう聞こえなくなって、遠くでカラスの鳴く声が聞こえる。
「さとちゃ……」
俺だけに届く甘い声。
「雅紀」
「さとちゃん」
愛しい名前
大切な名前
また風が風鈴を揺らして、ちりりん、りりりん、と音が鳴る。
オレンジから藍色に変わる空の色。
その光を宿して、雅紀の瞳も色を変える。
「綺麗だな」
「さとちゃん……」
……あれから……
何度も肌を重ねて
何度も何度も呼んだ名前。
その名前は呼ぶ度に色を変えて、俺の毎日が鮮やかに彩られていく。
春の花も
夏の緑も
秋の空も
冬の星も
幾度となく繰り返される季節が、見たことのない色で彩られて、輝いていくのを
ここで、
ふたりで……
ずっと見ていこう。
「愛してるよ、雅紀」
「……うん、俺も……」
柔らかく微笑んだ唇にそっと口付けて、愛しい名前をもう一度呼んだ。
