「うわぁ!しょーちゃん!見て!お月様、赤いよ!ほんとに赤い!」
目をキラキラ輝かせて、俺の愛しい人が俺を振り返る。
「気をつけろよ」
手すりに身を乗り出す後ろ姿に声をかけて、手に持っていたコーヒーに口をつけた。
「えっと、なんだっけ……ウルトラスーパームーン?あれ?違うな……」
「スーパーブルーブラッドムーン、な。
スーパームーンとブルームーン、ブラッドムーンの3つが重なってんだって。
まぁ、正確に言うとブルームーンの定義が間違ってんだけどさ……」
「そうなの?でもなんか、すげぇ強そう!」
あひゃひゃって笑う声に違和感を感じて、その横顔を覗き込んだ。
赤い月を映すその瞳は、ゆらゆらと揺れている。
「雅紀?」
「なんか、感動しちゃってさ。だって、すごい久しぶりなんでしょ?」
「地球上で見られるのは35年ぶりらしいよ」
「そんな珍しいものをさ、こうやって、しょーちゃんと見られるなんて、さ……」
長いまつ毛のあいだから、ぽろりと満月みたいな雫が落ちる。
「どんだけの奇跡が重なって、ここでこうしてるんだろって思ったら、さ……なんか、なんかさ……」
慌てて目元を擦ろうとする手をそっと止めた。
「まだ、収録あんだろ」
もうすぐ、オリンピックの開催地と東京を行ったり来たりの、すれ違いの日々が始まる。
地球規模で35年ぶりの天体ショーをどうしても見たいって言い張って、かなりなワガママを押し通して手に入れた貴重なふたりの時間。
こぼれる涙を唇で拭った。
同じ時代に生まれなければ
同じ場所にいなければ
ほんの少しでも道がずれていたら、絶対に出会うことのなかった俺たち。
誰かひとりでも足を止めていたら、ここまでこれなかった俺たち。
驚くような奇跡と、小さな奇跡を繰り返してここにいる。
でも、それはきっと奇跡なんかじゃなくて。
繰り返される星の動きときっと同じで、決まった軌跡を描いて、そうなるようになってるんだと、そう、思うようになったのはつい最近のこと。
「そうなるように、なってたんだよ」
「え?」
「俺たちは、出会うようになっていて、ここに、こうしているのも、きっと最初から決まってたんだよ」
俺よりも少し広い肩を抱きしめて、細い首筋に顔を埋めた。
「しょーちゃんってさ……」
擽ったそうに肩を竦めながら、雅紀が楽しそうに笑う。
「すんごいロマンチストだよね?」
「お前のせいだ」
「人のせいにしないでー」
「雅紀を見てると、ピュアになってく気がすんだよ」
「くふふ、違うよ。しょーちゃんは元々ピュアなの!」
「……じゃあ、素直に言おう」
「え?」
緩めた腕の中で、雅紀が俺を振り返るから、今度はその細い腰に手を回した。
「キス、していい?」
「……ばか……」
また白く光り始めた細い月みたいに、ゆるくカーブを描く唇を親指でそっとなぞる。
好きだよって言葉を載せたまま、その唇にそっとキスをした。
