『櫻井翔 様』
座席の上に置かれた紙袋に手を伸ばす。
ザワザワと人が動いている巨大な空間。
これが、相葉くんの仕事。
これが、相葉くんの生きている世界。
袋の中に入っていたパンフレットを開けば、見たことのある笑顔で相葉くんが笑っている。
あまりにも違いすぎて、手が震える。
やっぱ、来るべきじゃなかったのかも。
『俺、めちゃくちゃ頑張ってるから!』
けど、あの時の相葉くんの笑顔を見たら、断るなんて選択肢はない。
パンフレットを閉じて、袋に戻したところで照明が落ちて、歓声が上がる。
流れ出したイントロに、ペンライトが揺れる。
「なんだこれ……」
見たことのない風景に、全身に鳥肌が立った。
照明が一気に明るくなって、割れんばかりの歓声が響く。次の瞬間に聞こえてきたのは相葉くんの話している時とは違う、甘い歌声。
そこにいるのに、いないみたいだ。
俺の知っている相葉くんじゃない相葉くんが、ステージの上で動き回る。
その動きに、声に、惹き込まれる。
目が合ったと思った瞬間、俺を見て嬉しそうに笑うから、思わず小さく手を振った。
肩で息をしながら、相葉くんが笑って手を振って、投げKissまでするから、後ろからものすごい悲鳴が上がる。
投げKissとか俺にした訳じゃないかって思っていたら、また相葉くんと目が合って、今度は相葉くんが顔を歪めてから、前を通りすぎた。
「やだ!今の見た?!」
「やばーい!ウィンクきた!」
聞こえた声に思わず振り返る。
ウィンク?今のが?!
なんかもう、いろいろ、いろいろが衝撃的すぎて笑える。
「アンタ、雅紀のなに?」
「え?」
いつの間にか隣の席に来ていた、彫りの深いイケメン。
「この間、雅紀をジムから連れてったろ。せっかく俺が特別メニュー作ってやったのに、アイツ逃げやがって」
ステージを見てから、俺を見てニヤリと笑う。
この間、ジムから相葉くんが逃げてきたのは、彼の特別メニューのせいってこと?
「アイツ、鍛えがいがあるからさ」
ステージの上の相葉くんは、しなやかに手足を動かして踊っている。
「宣戦布告、な」
「え?」
また近くに来た相葉くんに、かっこよく投げKissをしてから、イケメンくんは俺を指さした。
「覚えとけよ、櫻井翔」
そう言ってかっこよくウィンクを決めて、『お先に』って出ていくイケメンくんの後ろ姿を呆然と見送った。