「じゃあな」
「うん、ありがと」
自宅の最寄り駅のロータリーで潤の車を降りて、赤い車が遠ざかるのを確認してからゆっくりと歩き出す。
潤に抱かれて、何も考えずに深く眠ったはずなのに、スッキリしないのはなんでだろう。
こんなこと、今まで無かったのに。
突き刺さるような寒さに、ぶるりと身震いして家に急いだ。
冷えきったリビングの暖房を入れて、洋服を脱ぎ捨ててシャワーの栓をひねる。
勢いよく流れていくお湯を眺めて、ため息をついた。
今日行けば、しばらくは会わなくて済む。
櫻井くんの笑顔を思い出しながら、ほっとするのと同時に、胃の上の辺りをぎゅって掴まれたみたいな、そんな感じがして蹲った。
見ていて、面白いだけだったのに。
いろんな表情を見せてくれるのが、楽しかっただけなのに。
いつの間にか、櫻井くんのことを考えたら痛いとか苦しいとか、そんな感情が大半を占めるようになってきた。
「なんなんだよ、もう……」
何も食べる気がしなくて、まだ胃の辺りが締め付けられているような感覚を引きずったまま、のろのろと着替えて家を出た。
「……あ……」
電車を降りて、図書館へ向かう途中で立ち止まる。
大きく手を振りながら近づいてくる人影。
「相葉さん、おはよ!昨日は、ありがとう。潤のやつ、すげー喜んでてさ」
「うん。僕も久しぶりに潤くんとおしゃべりできて楽しかったよ」
真っ直ぐに僕を見つめる視線から、目をそらして答える。
「今度、マジで飯作ってよ」
「……機会があったら、ね」
「そんなもん、作るに決まってるじゃん」
「え?」
「チャンスは待たずに作るべし!」
驚いて櫻井くんを見たら、人差し指を俺に向けてドヤ顔でそう言った。
「そんなの、聞いたことないよ」
「俺が今、言ったんだよ」
にやりと笑う櫻井くんに、思わず吹き出した。