「ご馳走様でした」
「楽しかったし、いいの見つかったし、付き合ってくれてありがとう」
店を出て、深々と頭を下げる櫻井くんに、僕もぺこりと頭を下げた。
顔を上げて笑ってから、駅に向かって並んで歩く。
「相葉さんって家どこなんですか?」
「え?あぁ……千谷」
「え?千谷?図書館から遠くない?」
「学生の時から住んでるから居心地良くて。櫻井くんは?」
「俺は図書館から徒歩15分くらい」
「あ、そっか。いつも自転車だもんね」
「あー、駅までかぁー」
櫻井くんがそう言って天を仰ぐ。
「え?」
そのまま視線だけを僕に移して、櫻井くんが言う。
「千谷、反対方向だからさ……相葉さんと一緒にいられんの、駅までだなって思って」
「くふふ、なにそれ」
「だって、今日、すげー楽しかったから」
そう言って笑うその顔に、胸がぎゅって痛くなるのはなんでだろう。
「……相葉さん、誕生日はデート?」
「へ?」
突然変わった質問に、驚いて立ち止まる。
「クリスマスイブが誕生日だとさ、プレゼントって2つもらえんの?」
驚いてる間にまた、質問が変わる。
「あ、えっと、ひとつだけだった、かな……」
誕生日とかクリスマスとか……楽しみでも何でもなかったって言ったら、櫻井くんはどんな顔をするんだろう。
サンタクロースなんて、信じられなかったって言ったら?
駅前のクリスマスのイルミネーションをぼーっと眺めていたら、ふわり、と柑橘系の甘いかおりがした。
「返すの忘れてた」
「あ、うん……」
僕の首にマフラーをかけた櫻井くんが笑う。
「じゃあ、また」
当たり前みたいにそう言って、笑う。
「うん。気をつけて帰ってね」
「女子じゃねぇし」
あははって、笑うけど。
オンナノコだけが危ないわけじゃないんだよって、言いかけて止めた。
そんな世界、知らない方がいいに決まってる。
「相葉さんこそ、気をつけなよ?家ついたら連絡ちょうだい?」
「え?」
「心配だから、さ……」
後頭部をカリカリ掻きながら、恥ずかしそうに笑う。
「じゃあ、櫻井くんも家に着いたら連絡してね?」
「ん、分かった……じゃあ、また」
「うん。またね」
繰り返される『また』に、『また』って言う、ちょっと寂しそうな顔に、胸の奥の方がぽわって温かくなって、チリッと痛んだ。
何度も振り返る櫻井くんに小さく手を振って、反対方向のホームに向かう。
どこかから吹いてくる冷たい風に、マフラーをしっかりと結き直した。