念入りに身体を洗って、渡された洋服を身に付ける。
「雅紀は、何でも似合うな」
嬉しそうに笑う潤をチラリと見てから、リュックを肩にかけた。
「朝メシは?」
「いらない」
「なんか腹に入れとけよ。メシはちゃんと食え」
「うるさい」
「送ってく」
「いらないってば」
お決まりのやり取りをした後に、潤が笑う。
「ほんっとに可愛くねぇな、お前」
「可愛いと思ってくれなんて、頼んでない」
伸びてきた腕を避けて、ドアを開けて外へ出た。
通勤や通学の人達の波に紛れて、電車に揺られて図書館に向かう。
毎日同じ時間、同じ場所には乗らない。
それでも、何人かは見たことのある顔。
こっちを見てなにか話してる女子高生も、ちらちらと横目で見てくるスーツ姿のサラリーマンにも、気が付かないふりをして窓の外を眺める。
昨日、櫻井くんはあの後どうしただろう。
怒ってる、かな。
呆れた、かな。
ドアが開いて、乗り込んできた懐かしい制服にドキッとした。
今日は日曜日だから、3年生の櫻井くんは部活だってないはずで、いるわけないのに。
……これじゃまるで、櫻井くんに会いたいみたいだなって苦笑する。
「あれ……」
図書館の駐輪場に、見慣れた金髪の後ろ姿。
入口の横のガラスから中を覗いている背中に笑いを噛み殺しながら声をかけた。
「不審者さんですか?」
「違うわっ!」
ぶっ!って吹き出して、笑いながらそう言って櫻井くんが振り向いた。
変わらない笑顔に、ほっとした。
「だって、こそこそ中覗いてるから」
「ちょっと見てただけじゃないですか!っていうか、不審者に『さん』付けます?」
少し口を尖らせて、でも顔は笑顔のまんま。
確かに、不審者にさん付けはおかしいよねって自分でもおかしくなって笑う。
口に手を当てたときに、櫻井くんからもらったブレスレットがちゃりって音を立てた。
「くふふ。昨日はごめんね?」
「あー、えっと……」
そう言ってから、櫻井くんが僕の大好きな笑顔で笑った。