「おとなしく寝てなさいよ?」
「……」
「1週間遅かったらアウトだったわね~。いつも風邪なんてひかないのに、知恵熱かしら?」
「うるせぇよ」
「とにかく、あと2週間あるんだから、しっかり休んで早く元気にならないとね。今までちゃんと勉強してきたんだから、2、3日休んだところで問題ないでしょ」
母さんがそう言って、イオン飲料のペットボトルを置いて、部屋を出ていった。
シャツ1枚で雨に打たれた挙句、シャワーを長く浴びたせいで熱出すとか、馬鹿だろ、俺。
推薦入試まで、2週間だっていうのに。
ピアノから帰ってきた潤が、俺に飛びついて『にぃ、あっつい!』って言うまで、具合が悪いことすら分からないくらい頭ん中がぐるぐるしてた。
食欲ないって言ったら『翔がご飯食べないなんて!』って、大げさに驚きながら母さんが茶碗蒸しを作ってくれて、なんとかそれだけ食べてからベッドに潜った。
これが知恵熱なら、完全に相葉さんのせいだろ。
あんな風に穏やかに笑ってるくせに、さ。
やることはちゃんとやってんじゃんって…
勝手に作り上げてたイメージが崩れ去って、急にリアルになったのが、怖かった。
知らないままで良かった。
ただ、見てるだけで良かったのに。
笑顔じゃなくなった相葉さんの顔。
傷ついたみたいなそんな顔。
ふざけんじゃねぇ。
傷ついたのはこっちだっての。
そんな顔すんなら、そんなことしてんじゃねぇよ。
欲を握った右手を、ぎゅって握りしめた。
「くそぅ……」
次、どんな顔して会ったらいいんだよ。
罪悪感に押しつぶされそうなのに、目を閉じたら、くっきりと見える赤い跡。
会いたい、けど、会いたくない。
欲望がまた、湧き上がる。
俺の知らない顔が、見たい。
俺しかしらない顔を、させたい。
「……ふっざけんなよ」
どうしろっていうんだ。
どうしたいんだ、俺は。
こんな事でうだうだ悩んでる場合じゃないのに。
熱のせいだけじゃなくて、ガンガン痛む頭を抱えて布団に潜り込んだ。