「七十二候はさ、二十四節気を更に3つに分けたものなわけ。二十四節気はわかるだろ?」
「春分とか秋分とか、だよね」
何度もキスをした後に、お腹すいたねって、学食に移動した。
さっき、説明してもらってた途中だったのをご飯を食べながらまた説明してもらう。
「で、二十四節気でいうと、今は夏至が終わって、小暑な」
「七十二候だと、小暑も3つに分かれてるってことだよね?」
「そ。初候、中候、末候って、5日くらいで分かれてんの。で、ちょうど今が末候の……」
しょーちゃんが、メモ用紙にペンを走らせる。
『鷹乃学習』
「これなわけ。『たかわざをならう』とか『たかすなわちわざをならう』とか読むんだけどな?要は雛が巣立って、独り立ちのために狩りを習う時期ってこと」
「そっか、そういう意味なんだ」
「そ。だから、そんな時に進路希望調査票なんて見せられてさ、じぃさんも感慨深かったんじゃねぇ?」
「うん、そうかも。あっという間に3年生の夏休みだもんね」
唐揚げを口に入れて、しょーちゃんが書いた文字を眺めた。
「で?期末、どうだったんだよ」
「うん。合格ラインは行ったと思う」
「じゃあ、ほぼほぼ決定、だな」
こつんって、しょーちゃんのつま先が俺の足を蹴るから、むぎゅって、踏んでやった。
にやりと笑ったしょーちゃんが、俺の皿から最後の1個だった唐揚げを攫っていく。
「あ!ちょっと!」
「雅紀の唐揚げの方が美味いなぁー」
「もう!そんな事言っても誤魔化されないからね!後でアイス奢りね!」
しょーちゃんを睨んだ俺を見て、しょーちゃんが、ははって眉毛を八の字にして笑った。
しょーちゃんが、大学生になって3ヶ月。
俺が、大学生になるまで9ヶ月。
俺が、そろそろ独り立ちする時期。
いつまでも、じぃちゃんやしょーちゃんを頼ってちゃダメなんだ。
「あのさ」
こつんって、またしょーちゃんのつま先が俺の足を蹴る。
「あんまり、ひとりで先に行くなよな」
「え?」
「なんか、どんどんお前が遠くなりそう」
はーってため息をついて、しょーちゃんがテーブルに突っ伏した。
「しょーちゃん?」
「俺まだ、なんも決まらねぇ」
「しょーちゃんが目指してるのは、まず会社に入らないとどうにもならないもんね」
「そうなんだけど、なんか焦る」
目だけ動かして俺を見上げたしょーちゃんが、何だかすごくかわいくて、頭をよしよしって撫でてあげた。
俺の手を捕まえて、しょーちゃんが起き上がる。
「どっか、いこ。大学はもういいだろ?」
「あ、うん」
俺の返事を聞く前に、ふたり分のトレイを持って立ち上がったしょーちゃんのあとをカバンを掴んで追いかけた。