「すっかり長居をしてしまって、すみません。シュピーゲル、またな」
深々と頭を下げた小動が、しゃがみこんでシュピーゲルをまた わしゃわしゃと撫で回した。
「今日はいろいろと貴重なお話を聞けて楽しかったです。ショコラもケーキもとても美しくて、美味しかったですし」
「ありがとうございます。あのっ……また、来てもいいですか?」
「もちろん。いつでも歓迎しますよ。
次はシュピーゲルのチョコレートを作ってくださるんでしょう?」
手を差し出せば、嬉しそうに手を握り返す。
ぎゅ、と一瞬強く握られて、離される。
「あ、そうだ。
今度、ショコラフェスってイベントがあるんですけど、もしよろしかったら、是非」
小動がポケットからチケットを取り出した。
「では、失礼致します」
もう1度ぺこりとお辞儀をしてから、小動が門の向こうに消える。
手の中に置かれたチケットをじっと眺める。
行きたいと言ったら、影山は来るだろうか?
そんな風に思った自分を笑う。
……来る訳、ない。
慧を連れて行ってやろう。きっと、目を輝かせて喜ぶだろう。
チケットを胸ポケットにそっとしまった。
「御前様、ショコラとケーキ、私達もいただいていいですか?」
「いいよ。あ、慧」
「はい?」
うっとりとチョコレートの薔薇を見つめている慧に、声をかける。
「影山が来ること、知っていたの?」
「え、あの……知っていた、というか……」
慧が もごもごと黙り込んで、横山と風間も顔を見合わせて黙り込んだ。
「慧」
低い声で呼べば、ぴくりと肩が上がる。
「うわーん、もう!ごめんなさい!影山さんに何かあったらすぐに連絡するようにって言われてたんです!」
ものすごい勢いで頭を下げた慧が、そういった後にちらりとこちらを見上げる。
その顔を見て、仕方ないな、とため息をついた。
「……そう。少し部屋で休みます」
主を心配そうに見上げて、シュピーゲルが隣を歩く。
「何かあったら連絡しろとか、『雅紀になにかあったら、すぐに飛んでくるよ』なんて、言ってるくせにさ……いてほしい時には、いつもいないんだ。どう思う?シュピーゲル」
そんなの、今に始まったことじゃないのに。
さっき見た背中が、自分を拒絶しているような、そんな気がして、勝手に落ち込んだのは自分だ。
どうして、僕は僕で、影山は影山なんだろう。
部屋のドアの前で大きなため息をついてから、ゆっくりとドアを開けた。