マンションのエレベーターの中で、カバンから鍵を取り出して、悩む。
これから帰るよってメッセージは送った。
鍵、開けて入る?それとも、チャイムを鳴らす?
「やっべぇ、なんか緊張する」
手のひらに滲んだ汗ごと、鍵を握りしめた。
「いやいやいや、俺ん家だろ」
悩みつつたどり着いたドアの前でそう呟いて、鍵を差し込んだ。
ドアを開けた瞬間、暖かい空気といいにおいに包まれる。
「しょーちゃん、おかえり!」
雅紀がキッチンからひょこっと顔を出して笑う。その笑顔に、心までほわっと暖かくなる。
「これは、ヤバイだろ」
「ん?なんか言った?」
ぼそっと呟いた俺に、雅紀が首をかしげた。
「腹減ったって言ったの!」
「くふふ。もうすぐ出来るよ?早く着替えておいでよ」
「マッハで着替えてくる!」
「なに、マッハって!しょーちゃん、オッサンくさいよ!」
「オッサンじゃねぇ、お兄さん、な!」
あひゃひゃひゃひゃって笑う雅紀を軽く睨みつけてから、スーツを脱いでクローゼットを開けた。
ピシッとアイロンのかけられたシャツ、ほのかに香るいいにおい。
「…あと、6日か」
クローゼットの扉にごんって頭をぶつけるようにくっつけて、小さな声で呟く。
もうひとつ、プレゼントを追加しよう。
記念すべき20歳の誕生日だし、クリスマスなんだし。
喜んでもらえるかどうかはわからないけど……いや、きっと喜んでくれるはず。
クローゼットの奥に突っ込んだ紙袋を見てから、スウェットを、引っ張り出して着替えて、いいにおいのするテーブルについた。
「うわ!今日も美味そう!」
「あ、しょーちゃん。これ、お釣りと鍵、お返しします。どうもありがとう」
「いや、こちらこそありがとう。ワイシャツ全部すげー綺麗になってて、いいにおいしてた。メシもありがとう」
「しょーちゃん待ってるの、幸せだったよ」
恥ずかしそうに笑って言う雅紀に、いただきますって持ち上げた箸が止まる。
「俺も幸せだわ。帰ってきたら家の中暖かくて、うまい飯ができてるって、最高だな」
「……結婚、したくなった?」
「は?」
「俺はいつでも、しょーちゃんのお嫁さんになる準備は出来てるんだけどなぁ~」
しょーちゃん、ご飯粒ついてるよって雅紀が手を伸ばして、にっこりと笑った。