半歩、戻って振り返る。
しゃがみ込んでいる見慣れた背中。
その腕に絡みついているのは、ゴテゴテと色んなものがくっつけられた爪。
「もう立てないかもぉー」
甘ったるい声に鳥肌が立つ。
「しっかりして?立てる?」
「相葉くんがぁー、キスしてくれたら立ってもいいよー?」
「え?な、何言ってんの?」
黙って通り過ぎようとしたけど、出来るわけない。
「雅紀?」
「え!しょーちゃん?!」
腕を掴まれたまま、雅紀が振り返る。
「何してんの?」
「クラスの子が動けなくなっちゃって……」
「ふぅん……?」
まだ、雅紀の腕をつかんだままの女のコに顔を近づける。
「自信、ないんだ?」
「え?」
小さい声でそう言って、腕をぐいって引っ張って立たせた。
酔ったフリしなきゃ近づけないくらいなら、最初から諦めろっての。
「女のコが泥酔すんのは危ないな。家、どこなの?」
タクシーを止めて女のコを押し込んで、聞いた住所を運転手に伝えて、多めの現金を渡してドアを閉める。
「あのっ……」
「次からは飲みすぎないようにね?」
何か言いかけた女のコの言葉を遮って、にっこり笑って手を振って、タクシーを見送った。
「しょーちゃん、やっぱりすごいね!」
俺の後ろでオロオロしていた雅紀がふーって、息を吐いた。
「すごいね、じゃねぇよ。気をつけろって言ったろ?」
振り返って頭をぺちって叩いた。
「……え?」
「え?じゃねぇよ!アイツ、酔ってなんかいないだろ!」
「ええ?!」
「ええ?!じゃねえ!
なんかあったら、どうするつもりだったんだよ!」
「なんかって……ちょっと、待ってよ……しょーちゃん」
普通、反対じゃない?心配されるのは女の子の方じゃないの?って、雅紀が言って笑う。
「俺は、お前が心配なの!ほら、さっさと帰るぞ?」
まだ笑っている雅紀に背中を向けて、歩き出そうとしたら……
「ありがと」
雅紀が俺の背中にくっついて、くふふふふって笑った。