窓の外を見ていた雅紀が、あれ?って呟いた。
「どした?」
「うううん、なんでもない。ねぇ、そのアーティストさんってどんな人?」
「すげー才能持ってるのに、穏やかで優しい人でね」
ほわん、とした雰囲気を持つその人を思い浮かべる。
「もうちょっとこうして欲しいって言うとさ、アイデアがぽんぽんぽーーーんって、出てくんの。それも、すごい独創的なやつがさ……
でさ、何回も修正だの何だのって入ると嫌そうな顔する人多いけど、ずっとニコニコしててさ……
若い人たちにもすげぇ丁寧に接してて。オトナって、デキるオトコって、こういう人のことを言うんだなって思ったんだよね」
雅紀はふぅん、とかへぇーとか、にこにこ嬉しそうに俺の話を聞いている。
「……なに?」
「くふふ。しょーちゃん、楽しそうだなって思って……あ、ココでしょ?」
道端の小さな看板を指さして雅紀が言う。
「あぶね!行き過ぎるとこだった」
ログハウスの手前の水色の古いビートルの横のスペースに車を停める。
「先生、いるみたいだな。良かった」
車を降りてからシャツを引っ張っていたら雅紀が寄ってきて、襟を直してくれた。
「ありがと」
「うん。早く行こ?」
スタスタと俺の前を歩く雅紀が、チャイムを鳴らさずにドアを開けた。
「おい!」
他人の家勝手にドア開けるとか無いだろ!って、焦ってその肩に手を伸ばしたら…
「おー、まーちゃん、どした?」
中からのんびりとした声が聞こえてきて、出てきたその人が俺を見てぺこり、と頭を下げた。
「さとちゃん、こっち来てたんだ?」
「こっちの方が描きやすいから」
「しょーちゃん?早くおいでよー」
「や、ちょ……ちょっと待て!説明しろ!」
振り向いた雅紀が、くふふって笑う。
「ここ、さとちゃんのパパのアトリエだもん」
「おおの……くんの……」
そういえば、大野さん、だった。
ほわんとした雰囲気も、大野くんに似てるといえば、似てる。
「親父、今、電話中なんでどうぞ上がってください」
大野くんが俺を真っ直ぐに見て、言う。前も感じた鋭い視線。
そっか、まだ守ってるんだな、雅紀を。
俺は、その御眼鏡に適うんだろうか?
その視線を受け止めたら、大野くんがふにゃんって笑顔になった。